筆者は背景に、大手の寡占状態だった携帯業界の料金引き下げの起爆剤として菅首相の肝いりで参入した楽天が、菅首相が新政権発足後に功を急ぎ強引にNTTドコモなどの大手キャリアの値下げを実現させたことでハシゴを外されたことがあるとみる。価格優位性がなくなり劣勢に立たされた楽天に、菅氏が埋め合わせをしたというのが、日本郵政出資の実態だろう。
携帯料金引き下げと共通する「公共の財産」の政治利用
楽天の株価は日本郵政などからの出資受け入れを発表した12日から急上昇し、日本郵政などが支払う1株1145億円から約3割値上がりした。日本郵政自身の株価も約1割上昇するという「投資効果」は絶大だったため、株式市場筋からは「ダメ企業の1500億円を眠らせておくなら楽天に投資して利ザヤを稼ぐのは真っ当な判断」との声も聴かれる。ただ、この「公共の財産」を政治利用する光景には既視感がある。
携帯料金引き下げでは、「電波は公共の財産だ」と大手キャリアの料金プランに菅政権が許認可制でもないのに口出しし、強制的に低価格プランを出させた。消費者としては価格が下がったといって喜んでもいいかもしれないが、その反動で格安スマホ業者は最大手キャリアであるドコモの割安プラン「アハモ」に席巻され、青息吐息の状況になっていることは周知の通りだ。つまり、資本主義の大原則である「競争原理」を無視すれば短期的には効果が上がるものの、必ずひずみを生むのである。
今回の日本郵政の出資にしても、構造は同じだ。公共の財産である日本郵便のネットワークを民間企業が有効利用することに関しては、筆者もまったく賛成である。しかし、なぜ日本郵政グループとして出資した税金に近い性質の1500億円ものカネが、楽天の携帯電話基地局建設の原資としてのみ使われるのか。まともな説明や手続きがないまま、国民に目先のメリットをちらつかせて強引にコトを進めるやり方は、菅首相のお家芸であることを忘れてはいけない。
この資本提携のウラで何が行われていたのか。国会議員や報道だけでなく、特に日本郵政と楽天の株主も徹底的に追及すべきである。