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「アストラゼネカ製ワクチンは安全」WHO、EMAが見解…メディア報道が不安を増大か

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 各国で新型コロナウイルスのワクチン接種が進むなか、英アストラゼネカのワクチン投与後に血栓が起きる有害事象が複数報告され、死亡者も出た。現時点で因果関係は不明だが、ヨーロッパを中心に約20カ国が接種を中断した。

 現在までに日本が契約したワクチンは、米ファイザーから年内に1億4400万回分(7720万人分)、アストラゼネカから1億2000万回分(6000万人分)、米モデルナから5000万回分(2500万人分)。

 有害事象により、日本が確保する6000万人分供給予定のアストラゼネカ製ワクチンが使用できないとなると、ワクチン接種の計画そのものが大きく狂い、コロナ収束がまた遠くなってしまう可能性があるため、大きな緊張が走った。

 一連の動きを受け、安全性を検討した世界保健機関(WHO)は3月15日、「ワクチン接種と血栓の発生の関連を示す証拠はない」と表明したのに続き、18日には欧州連合(EU)の医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)が、アストラゼネカ製ワクチンについて、「効果がリスクを上回る」との結論に至ったと表明した。

 ワクチンにまつわる報道が不安を増大させていることは否めず、我々は冷静な目で情報とその評価を見極めるべきだろう。報道に惑わされず我々はどう向き合うべきかを、有明みんなクリニック・有明こどもクリニック・有明ひふかクリニック理事長、小暮裕之医師に聞いた。

メーカーによるワクチンの違い

 一般的に、ワクチンの開発には10年近い期間を要する。

「従来の生ワクチンや不活化ワクチンというものが主流であり、病原体のウイルスや細菌を別の宿主や細胞で増殖させるため、その製造には長期間を要します」(小暮医師、以下同)

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 これに対し、新型コロナウイルスワクチンは、短期間で製造が可能である。

 EMAによると、10日の時点でアストラゼネカ製ワクチンを接種した欧州内の約500万人のうち30人に血栓が確認された。その後も韓国で60代男性がアストラゼネカ製ワクチン投与後に肺血栓塞栓症で亡くなったと報道され、多くの人が不安を抱いた。しかし、肺血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」として知られているように、いくつかの条件下でリスクが高まる。

「肺血栓塞栓症は、日本では1年間に人口100万人あたり62人発症するという報告もあります。高齢者となると、さらにその発症率は高くなります」

 血液は流れが滞ると凝固し、血栓ができやすくなる。エコノミークラス症候群は広く知られているが、これは航空機などで長時間座った姿勢でいると下肢の血液が滞り、血栓が生じて発症するメカニズムである。また、遺伝、薬剤、加齢など様々な原因によって血栓のリスクが高くなる。

「他の国でみても、血栓は高齢者ほど発症リスクが高いといえます。現在まで世界でのワクチン接種回数は4億回に届こうとしています。この数を対象に考えると、ワクチン接種後の報告よりも遥かに多い数の人が血栓が起きる可能性があり、今回のワクチン接種後の血栓が本当にワクチンに起因するものとは言いがたいと思います」

 小暮医師の見解は、WHOおよびEMAの判断と同様である。

「現段階では、ワクチンの接種によって血栓が増えるとはいえません。しかしながら、接種後の経過観察を十分に行い、必要があれば適切な処置を速やかに行う体制をとることが重要です」

 WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は19日の定例の記者会見で、引き続きアストラゼネカが開発したワクチンを使い続けることを求めると述べた。

「長引くコロナ禍に、経済的落ち込みから自殺者も増加しており、国がとるべき戦略は『早急なワクチン接種』だと思います。繰り返しますが、血栓についてはワクチン接種がない集団でみても同様に発症する可能性があるという事実を、冷静に考慮してほしいと思います」

 ワクチンの存在なしでは、我々が以前の日常を取り戻す日は遥か遠い。ワクチンが我々にとって救世主であることは確かだ。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

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吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

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