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NHK「庵野秀明」特集、『エヴァ』制作の超絶な過酷労働&スタッフ疲弊ぶり、話題に

文=編集部
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エヴァンゲリオン公式サイトより

 22日に放送されたNHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』が大きな反響を呼んでいる。

 今放送では、3月8日の公開後2週間で興行収入49億円、観客動員数322万人を記録する大ヒットとなっているアニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の総監督、庵野秀明氏に密着。番組のHPでは「これまで長期取材が決して許されなかった庵野の制作現場を、シリーズ完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で初めて余すところなく記録した」と紹介されている。

 通常、アニメ制作ではカットごとの絵コンテを作成し、それに沿ってアニメーションを制作していく。だが『シン・エヴァ』では庵野氏の方針に基づき、絵コンテをつくらず、最初に「モーションキャプチャー」(実際の俳優の動きを撮影してデータとして取り込み、アニメーション制作に生かす手法)を行い、その映像を編集して完成状態をシミュレーションする素材である「プリヴィズ」をつくるというプロセスで進められた。

 庵野はモーションキャプチャーの現場で、カメラ撮影をスタッフたちに任せ、自身はその映像を確認することのみに終始していた。

「自分がやるよりは、任せたほうがいい。自分で最初からやると、自分で全部やったほうがよくなっちゃう。やっぱり頭の中でつくると、その人の脳の中である世界で終わっちゃうんですよ。その人の外がないんだよね。自分の外にあるもので勝負したい。肥大化したエゴに対するアンチテーゼかもしれない」(庵野)

 しかし庵野は開始から数日たったところで、スタッフを前に「正面の引き画が、いい画が一個もない」「今のだと、使えそうなの、ほとんど撮れてない」とダメ出し。自身でスマートフォンを手にして撮影を始めるのだが、番組内で監督の鶴巻和哉は次のように語る。

「いったんは人に任せてみようと庵野さんはいつも思ってる。なのに、そうならない。最終的には庵野さんが全部塗りつぶしていくし、書き換えていくことでしか、庵野さんが満足いくものがつくれていないのかも」

作品至上主義

 庵野は映画の冒頭30分の「Aパート」のプリヴィズ制作をスタッフに任せるが、出来上がったものを見て、庵野はイチからプリヴィズをやり直すと言い、スタジオにこもる。そして9カ月かけてつくってきたAパートについて、「Aパートごと(脚本を)書き直そうかな。僕の台本が全然できてないっていうのが、これでわかった」と、ゼロから書き直しを始めることに。いったんは出来上がったプリヴィズに対し、一部のスタッフから不評の意見が出たことが理由だという。

 そこまで完璧を目指す理由について、庵野は次のように語る。

「作品至上主義っていうんですかね。僕が中心にいるわけじゃなくて、中心にいるのは作品。作品にとって、どっちがいいか、ですよね」

「自分の命と作品を天秤にかけたら、作品のほうが上なんですよ。自分がこれで死んでもいいから作品を上げたいっていうのは、これはある」

 さらに公開日が1年半後に迫ったタイミングで、庵野は作品後半4分の1の「Dパート」について脚本からやり直すと宣言。その部分の脚本が上がらない状態のまま前半のアフレコが始まるシーンもみられた。

庵野と宮崎駿しか許されない

 庵野は「映画の監督に必要なことって、覚悟だけだと思うので。全部自分の責任、自分のせいにされる覚悟があるかどうか」と映画制作に取り組む覚悟を口にするが、番組を見た映画業界関係者はいう。

「絵コンテを使わずモーションキャプチャーとプリヴィズからつくり上げるというのは、通常の手法ではなく、それだけに尋常じゃない労力と時間がかかる。4年以上かかっても、そうしたやり方が許されるのは、公開すれば確実なヒットが保証されている『エヴァ』だからです。今の業界でそうした特例的なやり方が許されるのは、庵野さんと宮崎駿くらいでしょう。

“庵野作品はこういうふうにつくられているのか”と興味深かったのは確かですが、数カ月かけてつくった30分にもおよぶ部分を、脚本からゼロベースでつくり直したり、スタッフがつくったものを何度も監督が全部ひっくり返したりというのは、通常ではあり得ないし、どんな現場でも許されないと思います。庵野さんと、庵野さんを100%信用しきっているスタッフの関係ができているからこそ成立する話で、一般的な映画制作の現場ではちょっと参考にはならないですね」

 また、番組を見た別の映画業界関係者もいう。

「ここまで作品の完成度に妥協せずこだわりに抜くのは、純粋に尊いことではありますが、庵野さん以外の現場では無理でしょう。アニメ制作業界の労働環境はずっとブラックだといわれ続けてきましたが、大手の制作プロダクションに労基署が入ったりして、最近では以前のようにギリギリの給料で多くのスタッフを長時間働かせるようなことは、できなくなってきている。

 庵野さんが『もうこれで決まったからここまで、っていうふうには、したくない』と語るシーンがありましたが、クリエイターの姿勢としては正しいかもしれませんが、これをやり出すと、現場はエンドレスの終わりのない状況に陥る。庵野さんの制作スタッフたちの疲弊しきった様子や、デスクで突っ伏して仮眠をとっている様子などが映し出されていましたが、庵野さんのようなやり方を通せば、間違いなくスタッフたちは心身ともに過酷な労働環境を強いられる。それこそスタッフたちが口にしていた“命をかける”状況になってしまう。庵野さんのような突出した才能の持ち主だからこそ、多くのスタッフもそれに耐えられるのであって、特殊な事例だととらえるべきです」

「シンエヴァ本編並みに感動」

 番組の最後、庵野は密着スタッフから、そこまで作品づくりにこだわる理由について聞かれ「僕が最大限、人のなかで役に立ってるのが、そこくらいしかない。世間には、それくらいしか役に立てない」と答えるが、ネット上では視聴者から次のような声があがっている。

<これ劇場公開してもいいんじゃねってくらいの密度のあるドキュメンタリーだった>(原文ママ、以下同)

シンエヴァ本編並みに感動しました>

プロフェッショナル庵野秀明を、One Last Kiss をBGMで、観ていたら、感情が抑えきれない>

<話それるけど、押井守がガルムウォーズ作った時も「とにかく終わらせる」という執念だったといってたけど、現場って凄まじいんだな…>

<昭和スポコンを体現したような回だった。庵野さんもすごいしスタッフもすごいなって。スタッフたちのモチベがえげつない。観た人に辛そうって言われてるけどボロボロになりながらも士気が高すぎる。猛者たちによるすごいチーム>

<一旦人に任せて出し尽くし、最後に自分でひっくり返してやり直すという方法。出尽くさせるのは、これではない、ということを確認する為であると感じました。何かを共同作業で進める上で一つの方法として参考になるものでした>

<めんどくさい人だろうと思ってたらめんどくさい人だった でも監督の命懸けの創作や支えるスタッフの方々に敬意を抱きました>

<いやぁすごい だんだん庵野さんが色んなスタッフさんやスケジュールをぶん回しまくってるので、ゲンドウに見えてきた>

 番組内では、庵野が自分でつくったプリヴィズを見ながら「普通の監督さんなら、このあたりだよね」「これつまんない。これもつまんない」とつぶやくシーンや、モーションキャプチャーの現場で「アングルと編集が良ければ、アニメーションって止めても大丈夫。実写でも、役者がどんなにアジャパーでも、アングルと編集が良ければ、それなりに面白くなる」と語るシーンもみられるが、こうした“庵野語録”も同番組の見どころかもしれない。

(文=編集部)

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