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「偉人たちの診察室」第12回・松永久秀

精神科医が語る“戦国一の極悪人”松永久秀…信長の持つ革新性への無理解から裏切った?

文=岩波 明/精神科医
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シェークスピアは意図的にリチャード三世を「悪役」として脚色したのではないか

 リチャードはしばしば、極悪非道の王として語られてきた。彼は、兄である前国王エドワード四世の息子である2人の少年をロンドン塔に幽閉した後に殺戮し、王位を簒奪したと歴史書は伝えている。だが、王となったリチャード三世の政権基盤は弱く、リッチモンド伯ヘンリー・テューダー(後のヘンリー7世)の反乱によりボズワースでリチャードは戦死し、ヨーク朝は終焉した(2012年、リチャード三世の遺骨が英国中部の都市レスターで発見されている)。

 リチャード三世の「悪名」を決定的にしたのが、シェークスピアであった。「ありとあらゆるこの世の慰みごとを呪ってやる」というのは、芝居の冒頭にあるリチャードのセリフである。この作品のなかでシェークスピアは、怪異な容貌と鬱屈した野心を持つリチャードが、神をも恐れない悪業を重ねていく様子を描いているが、これは事実とまったく正反対であるという説も論じられている。

 というのは、シェークスピアのつかえたチューダー朝はヘンリー7世から始まる王朝であったため、シェークスピアは意図的にリチャード三世を「悪役」として脚色したというのである。

 イギリスの女流作家、ジョゼフィン・テイに、『時の娘』という作品がある。フィクションではあるが、「リチャード三世悪人説」を真っ向から否定しているものとして興味深い。

 骨折のため、退屈な入院生活を送っていた主人公のグラント警部は、たまたま手にした歴史書を読み続けるうちに、「悪王」といわれてきたリチャード三世の悪評について疑問を持つようになった。グラントは安楽椅子探偵として古い資料を集め、常識とは異なる結論を導き出し、「リチャード三世は公正、誠実な君主であり、権謀術数を尽くしたのはリチャードを倒したヘンリー7世ではなかったのか」と結論している。

 イギリスには「リチャード三世協会」という組織があり、「リチャード三世はチューダー王朝の下で歴史的に汚名を着せられた」と訴えているが、『時の娘』は協会の活動に大きな刺激となったらしい。リチャードの場合と同様に、松永久秀の「悪名」が誤りであったことは、次第に明らかにされていくのかもしれない。

(文=岩波 明/精神科医)

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●岩波 明(いわなみ・あきら)
1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授にして、昭和大学附属烏山病院の院長も兼務。近著に、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書インテリジェンス)、共著に『おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線』(光文社新書)などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。

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