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ご当地ナンバーの悲劇…かつての「沼津」帝国が風前の灯火、「伊豆」「富士山」の独立宣言

文=渡瀬基樹
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東京2020オリンピック・パラリンピックの特別仕様ナンバープレート。都営バスなどに装着されているのは、よく見かけるのだが。

 自動車に必ず取り付けられているナンバープレート。厳密には自動車登録番号標と車両番号標、標識の3つに区別されている。自動車登録番号標は登録自動車、車両番号標は軽自動車や自動二輪車など、標識は小型特殊自動車や原動機付自転車(原付)に装着される。

 近年、ナンバープレートは変革期を迎えている。乗用は黄地しかなかった軽自動車のナンバーが白地を選択できるようになり、図柄入りのプレートも新たに登場した。ただ、これらはあくまでも国土交通省が主導する範囲の変革であり、自由度も限定的。魅力と感じる自動車ユーザーは多くはないだろう。

 顕著に表れているなのが、いわゆる「図柄ナンバー」だ。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を記念したロゴ入りプレートなども登場したが、バスなど公共交通用の車両くらいしか装着されているのを目にしない。

 地方版の図柄入りプレートも登場したが、人気があるのは「くまモン」が入った「熊本」ナンバーや、広島東洋カープのロゴが入った「福山」ナンバーくらい。2021年2~3月にも「日本を元気にするような」デザインが新たに募集されているが、そもそもナンバープレートごときで国が元気になるとはとうてい思えない。

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「くまモン」の「熊本」ナンバーと、「カープ坊や」の「福山」ナンバーは選択するユーザーが比較的多い。

46地域で導入済みも、「地域振興」にイマイチ寄与していないご当地ナンバー

 さらに迷走を続けているのが、「ご当地ナンバー」だ。「新たな地域名表示ナンバープレート」の通称で、2006年10月から導入された。「一般に広く認知された地域であること」「複数の市区町村の集合であること」「登録されている自動車の数が10万台を超えていること」など、いくつかの条件がある。2006年10月の「仙台」「金沢」など17地域を皮切りに、2007年2月に「つくば」、2008年11月に「富士山」が追加された。

 しかし、2014年には単独の市区町村でも10万台を超えていれば可能になり、2017年5月の追加募集では、複数の市区町村であれば登録台数が5万台超に下げられた。そのため2014年11月には「盛岡」「世田谷」など10地域、2020年5月に「伊勢志摩」「飛鳥」など17地域が加わった。現在では計46地域で導入されている。

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2020年5月より新たに加わった、17の「ご当地ナンバー」。

 ご当地ナンバーの問題点はいくつかある。そもそもの導入経緯である「地域振興」にまったく寄与していないこと、より小さな地域単位となったことで、所有者のプライバシーが侵害されることなどだ。

 なによりご当地ナンバーが罪深いのは、旧来のナンバーに魅力を考えていた人も、強制的にご当地ナンバーにしなければならないということだ。ご当地ナンバーの対象地域は、新たに車を購入・登録するとき、ご当地ナンバーを装着することが必須となっている。世田谷区民が新しく車を買っても、「品川」ナンバーにはできないのだ。

 しかし、導入から約15年が経過したにもかかわらず、旧来のナンバーとの選択制だと思っている人が少なくない。これまでのナンバーが装着された車を乗り続けることはできるが、買い換えればご当地ナンバーが強制される。数字部分が選べる「希望ナンバー」とは根本的に違うので、勘違いしないようにしたい。

 そして、多くの地域が導入したことで、既存ナンバーのなかに“割を食う”ところも出てきた。以下、カバーするエリアが激減してしまった“悲劇のナンバープレート”を4地域、紹介してみたい。今後もご当地ナンバープレートは増えていきそうな情勢のため、かつてはありふれていたナンバープレート名がレア物になることも、あり得るかも知れない。

会津、郡山、白河に“独立”された「福島」ナンバーの悲哀、2006年以降、対象エリアは段階的に半分以下に

もともと福島県は「福島」と「いわき」の2つだったが、新たにご当地ナンバーとして「会津」「郡山」「白河」が追加された。これがすべて「福島」ナンバーに該当する地域だったことが、悲劇を生んでいる。

 従来は「福島」ナンバーの地域は40市町村(12市18町10村)だったが、2006年10月より「会津」ナンバー(17市町村=2市11町4村)が生まれた。2014年11月には「郡山」ナンバー(1市)ができ、2020年5月には「白河」ナンバー(5市町村=1市1町3村)がスタートしている(すべて現在の市町村の区分けに基づく/以下同)。

 そのため現在の「福島」ナンバーの地域は、17市町村(8市6町3村)まで縮小している。これによって、登録自動車の保有車両数(2020年3月現在/以下同)は……

●福島ナンバー=35万634台
●会津ナンバー=12万2220台
●郡山ナンバー=17万1873台
●白河ナンバー=5万9391台

となっている。継続車両も含まれているため、現状では「会津」などの地域にも「福島」ナンバーが多く含まれているが、地域の区分けでは旧「福島」ナンバー地域の半分が失われている計算となる。

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「福島」ナンバーからは「会津」「郡山」「白河」が“独立”した。

「土浦」ナンバーの西側がごっそり「つくば」に…現在ではつくばナンバーのほうが多いという逆転現象

 北東側が「水戸」、南西側が「土浦」ナンバーだった茨城県では、「土浦」ナンバーの西側が、2006年10月から「つくば」ナンバーとなった。

 新たに導入されたご当地ナンバーはひとつだけなのだが、「土浦」ナンバーの地域の西半分がごそっと「つくば」ナンバーになってしまったため、「土浦」地域は激減。従前の24市町村(17市6町1村)から、11市町村(7市3町1村)になっている。

登録自動車の保有車両数(市町村合併前に登録されたものを除く)も、

●土浦ナンバー=32万1933台
●つくばナンバー=47万4946台

と、逆転されてしまった。

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新たに導入された「つくば」ナンバーによって「土浦」ナンバーは激減、車両数は逆転されてしまった。

「野田」ナンバーから「柏」ナンバーが独立後、“ライバル”松戸も怒りの独立

 千葉県北東部の「野田」ナンバーは、さらに深刻だ。平成の大合併で「野田」ナンバーの地域は野田市、流山市、柏市、我孫子市、松戸市の5市に収斂された。そこに、新たに2つのご当地ナンバーが誕生したから、たまったものではない。

 まず2006年10月に柏市と我孫子市が「柏」ナンバーとなった。柏市のライバル的存在である松戸市も黙ってはいない。2020年5月より、単独で「松戸」ナンバーとなった。

これによって、

●野田ナンバー=12万2879台
●柏ナンバー=18万2122台
●松戸ナンバー=13万7732台

と、野田ナンバーがもっとも少なくなってしまった。千葉県はほかにも「成田」「船橋」「市川」「市原」があり、ご当地ナンバーが好まれている県だといえるだろう。

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ご当地ナンバーがお好きな千葉県。

かつての「沼津」帝国が風前の灯火…「伊豆」ナンバーと「富士山」ナンバーが高らかに独立宣言

 もっとも悲劇的なナンバーといえるのが「沼津」ナンバーだ。もともと静岡県は中部が「静岡」、西部が「浜松」、東部が「沼津」に3分割されていたのだが、まず2006年10月に「伊豆」ナンバーができたことで、伊豆半島の6市6町がすべて「伊豆」ナンバーとなってしまった。

 さらに2008年11月には富士市など4市1町が、山梨県の7市町村とともに「富士山」ナンバーに。11市9町だった「沼津」ナンバーのエリアは、沼津市と長泉町、清水町のわずか1市2町まで縮小してしまったのだ。20分の3だから、わずか15%である。

登録自動車の保有車両数も、大票田の沼津市が残っているにもかかわらず、

●沼津ナンバー=21万8878台
●伊豆ナンバー=30万6149台
●富士山ナンバー(静岡県部分)=45万7489台

と、22%まで減ってしまった。ご当地ナンバーのない「静岡」「浜松」ナンバーエリアとは、対照的といえる。

(文=渡瀬基樹)

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1市2町にまで縮小してしまった悲劇的なナンバー「沼津」。まるで「沼津」のほうが新たにできたナンバーであるかのような肩身の狭さだ。

渡瀬基樹/フリーライター

渡瀬基樹/フリーライター

1976年、静岡県生まれ。ゴルフ雑誌、自動車雑誌などを経て、現在はフリーの編集者・ライター。自動車、野球、マンガ評論、神社仏閣、温泉、高速道路のSA・PAなど雑多なジャンルを扱います。

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