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成馬零一「ドラマ探訪記」

宮藤官九郎が描く長瀬智也の引退作『俺の家の話』が“コロナ禍のドラマとしては完璧”な理由

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家
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宮藤官九郎が描く長瀬智也の引退作『俺の家の話』がコロナ禍のドラマとしては完璧な理由の画像1
金曜ドラマ『俺の家の話』|TBSテレビ」より

 金曜ドラマ(TBS系、金曜夜10時枠)で放送されている長瀬智也主演のドラマ『俺の家の話』が最終回を迎える。

 本作は、42歳のプロレスラー・観山寿一(長瀬智也)が下半身不随となった父・寿三郎(西田敏行)を介護するために、プロレスラーを引退して家に戻ってくる話だ。

 寿一は「能楽」の大家・観山流宗家の長男として、父の跡を継ぐはずだった。しかし、修行に嫌気が差した寿一は17歳で家出をしてプロレスラーとなり、家族とは音信不通だった。

 家に戻った寿一は父の介護をする傍ら、観山家の弟妹、ヘルパーとして介護する中で寿三郎と婚約する仲となった志田さくら(戸田恵梨香)、離婚した妻と学習障害の息子といった、さまざまな人々と向き合いながら、観山家の後継者となるため能楽の修行に励むことになる。しかし、観山家の家計は火の車。このままでは離婚した妻への養育費も払えないため、寿一は覆面レスラーのスーパー世阿弥マシンとして再デビューする。

笑って泣ける大人の人情ドラマに

 脚本は宮藤官九郎、チーフプロデューサーは磯山晶、チーフ演出は金子文紀。この3人は、長瀬の出世作となった2000年のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)、2005年の『タイガー&ドラゴン』(同)、2010年の『うぬぼれ刑事』(同)といったテレビドラマを一緒につくってきた戦友だ。

 長瀬は今年の3月でジャニーズ事務所を退所。その後はタレント業を引退し、裏方に回ると言われている。明言はされていないが、結果的に本作は長瀬の引退作としてつくられたドラマとなった。長瀬にとっても宮藤にとっても集大成となっており、宮藤の過去作を発展させた要素も多い。

 中でも『タイガー&ドラゴン』を下敷きにした部分は多い。本作は落語を題材にしたドラマで、毎話のタイトルには「芝浜」「饅頭怖い」「明烏」といった落語の演目が使われており、物語もそれらの噺を下敷きにしたものとなっていた。

『タイガー&ドラゴン』のように前面には出ていないが、『俺の家の話』では能楽が物語の下敷きとなっており、劇中劇として、登場人物の過去を描く能楽が登場する。

 何より長瀬と西田敏行の掛け合いが絶妙で、車椅子に乗っていて自由に動けない寿三郎の入浴介護を寿一が行う中、お互いに悪態をつきながらも、少しずつ心が通じ合っていく姿はじんわりとする。

 他にも、プロレス、お家騒動、男らしさの病、アイドルとファンなど、要素は盛りだくさんだが、物語は直球。2000年の『池袋』以降、宮藤脚本、長瀬主演のドラマを観てきた視聴者は、当時20代だったとしても、すでに40代を超えている。

 そんな、長瀬と一緒に年を重ねてきた、もう若者ではない視聴者に向けた、笑って泣ける大人の人情ドラマに仕上がっているというのが、正直な印象だ。

プロレスと能の意外な共通点

 同時に興味深いのが「マスク」の見せ方だ。

 寿一はプロレスと能楽という2つの世界を行き来しながら、父親の介護を続けている。プロレスラーと能楽師は一見、正反対の職業に見えるが、どちらも仮面(マスク)をかぶることで別の人間になる職業として、本作では描かれる。

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