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江川紹子の「事件ウオッチ」第174回

河井克行元法相・参院選買収事件と安倍氏、菅氏、二階氏の“政治責任”【江川紹子の考察】

文=江川紹子/ジャーナリスト
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「自民党のど真ん中で起こった事件」に対する、二階幹事長らの責任の重さ

 責任は、自民党にもある。

 菅首相は、今月3日の参院予算委員会で、河井陣営に提供した1億5000万円について、「党勢拡大のための広報紙を複数回配布した費用に充てられたとの説明があったとの報告を受けている」と述べた。こんな曖昧な答弁では、説明責任を果たしたことにはならない。

 自民党の二階俊博幹事長は、河井氏が議員辞職願を出した後、「党もこうしたことを他山の石として、しっかり対応していかなくてはならない」と述べた。

 二階氏は、不正が行われた選挙の際に同党幹事長であり、1億5000万円の支出についても最高責任者だろう。「他山の石」と述べたことに、政治的な立場を超えて、驚きと批判が巻き起こった。

 「ついに他人と自分の区別もつかなくなったのか。他山ではなく、紛れもない自分の山、『自山』である。買収選挙が行われたことへの責任もかけらも感じていないような態度といわざるをえない」(小池晃・共産党書記局長)

〈どこからどうみても、人ごとではありえない。二階氏の発言は、よほど語彙力に欠けるか、さもなくば、党の反省のなさを象徴するものだ。河井被告がすでに離党していることが発言の理由なら、あまりに無責任である〉(3月26日付け産経新聞社説)

 案里氏の選挙には、安倍晋三首相(当時)の秘書が応援に入ったことが明らかになっている。安倍首相、菅官房長官(いずれも当時)、さらに二階氏自身が応援演説を行った。そして、この参院選挙が行われた後、案里氏は二階派に入り、安倍首相は内閣改造で、河井氏をこともあろうに法務大臣に就けた。

 誰が見ても「自民党のど真ん中で起こった事件」(枝野幸男・立憲民主党代表)だ。同党は、国会に河井氏らを招致して事実を解明しようという野党の動きに協力する政治的な責任があるといえるだろう。

 また、検察当局にも課題が残されている。河井夫妻から金を受け取った側の刑事責任の問題だ。金を受け取った100人のうち40人が広島県内の自治体首長や地方議員で、35人は買収の意図を感じたと認めた。

 公職選挙法は、金品を受け取った被買収の行為も禁じている。法定刑は3年以下の懲役か禁錮、または50万円以下の罰金だ。先に前例として挙げた事件のうち、たとえば新井正則元衆院議員の陣営による選挙買収事件では、議会議長を含む所沢市議9人が被買収容疑で逮捕され、いずれも執行猶予付き懲役刑の有罪判決を受けている。彼らが受け取った金は、10~20万円だった。

 地方選挙でも、被買収は厳しく罰せられている。

 2014年にあった青森県平川市の市長選挙を巡る公選法違反事件では、現金20万円等を受け取った市議15人が被買収で逮捕・起訴された。いずれも判決は有罪で、執行猶予付きの懲役刑を受けている。

 また、同じ年にあった徳島県牟岐町の町長選を巡る選挙違反事件で、落選した元町議から現金30万円を受け取った鮮魚商の夫婦は、やはり執行猶予付きの懲役6月の有罪判決を受けた。

 公職に就いているわけではない一般人でさえ、こうして処罰の対象になっているのだ。

 これに対して、河井夫妻の事件での地方政治家の受領金額の多くは20~30万円で、最高額は200万円に上る。報道によれば、40人のうち8人は辞職したが、残る32人の多くは、刑事処分が出ていないことなどを理由に議員活動を続ける意向を示している、という。

 検察は、法廷での証言の前にあえて処分を出さず、証人が刑事責任を問われるのを回避したいという迎合的な心理状態を作り出し、捜査段階での供述を維持させようとしていたのではないか。起訴権限を検察が独占的に有している仕組みを利用した、アンフェアな対応のように見える。

 地元の市民団体は、この40人を被買収で告発している。その処理が公平、公正に行われるのか、国民が注視していることを検察は忘れてはならない。

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。

江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

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