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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

世界の車載半導体不足に拍車…ルネサス工場火災、3万人リストラとファブライト化の代償

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 次に、スパッタリングという成膜方法でCuを薄く成膜する。このCuの薄膜をシード層という。その後、いよいよ問題のメッキ工程に移行する。そのメッキは、正確には電解メッキという。図6に示すように、硫酸銅と硫酸の水溶液中に、カソードとアノードの2つの電極を浸し、その電極間に直流電圧を印加する。また、Cuシード層を成膜したウエハをカソード側に設置しておく。

世界の車載半導体不足に拍車…ルネサス工場火災、3万人リストラとファブライト化の代償の画像8

 すると、水溶液中にCuイオンが発生し、それがカソードに引き寄せられ、Cuシード層の電子と結合してメタルのCuとなって析出する。その結果、図5のように、溝が完全にCuで埋め込まれる。その後、CMPで上部のCuを除去することにより、ダマシン法によるCu配線が完成する。火災は、上記のCuの電解メッキ中に起きたわけだが、筆者にはどうも理解できないのである。

過電流により発火した?

 ルネサスの記者会見では、Cuの電解メッキ中に過電流が流れ、それによって発火したということになっている。その記者会見のQ&Aで小澤社長は、「メッキ装置にはブレーカーが搭載されている」と答えている。安全対策として当然の措置であろう。

 一般家庭でもブレーカーがついている。筆者の自宅のマンションは、50A(アンペア)のブレーカーが設置されている。したがって、多数の電機製品を使って合計が50Aを超えれば、当然ブレーカーが落ちる。だから、50Aを超えないように注意して各種の電機製品を使うことになる。

 話をルネサスに戻すと、小澤社長はブレーカーが搭載されているメッキ装置について、「消防署の見解だと電流が流れているときに切れて発火している」と回答している。筆者は、この回答が理解できないのである。この発言は、「メッキを行っている最中に、ブレーカーが切れて(つまり落ちて)、過電流が流れ、発火した」ということなのだろうか? しかし、「ブレーカーが切れた(落ちた)」のなら、その時点で電流は止まるはずである。ブレーカーとは、過電流を抑制するための保護回路だから、普通はそうなるだろう。

 ところが、結果的に「発火」した。それは、つまりブレーカーが保護回路として動作しなかったことを意味するのだろうか? ということは、保護回路が故障していたということなのだろうか? 筆者には、このあたりのことが、まるで理解できないのだが、「保護回路の故障」の可能性が高いような気がする。

 したがって、ここから先は筆者の推測を書くことになるが、ご了解いただきたい。

福島県沖地震のダメージとリストラの影響

 ルネサス那珂工場は2月13日に発生した福島県沖地震で被災し、約3時停電した。N3棟には、数百台規模の製造装置があると思われるが、それらが一斉に電気が切れた。筆者は、この停電でなんらかのダメージを受けた製造装置があったのではないかと推測している。例えば、今回の火元になったようなメッキ装置の保護回路が壊れた、というようなダメージが、あちこちに発生していてもおかしくない。

 そのような停電で稼働が止まった数百台の製造装置を、1台ずつ立ち上げていくことになるが、ルネサスの那珂工場関係者がきちんと対応できているか疑問がある。というのは、2010年に日立製作所と三菱電機が設立したルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスが統合されて、社員数が4.92万人に膨れ上がったが、その後、オムロン出身の作田久男会長兼CEOが社員数も工場も半分に減らしてしまったからだ(図7)。

世界の車載半導体不足に拍車…ルネサス工場火災、3万人リストラとファブライト化の代償の画像9

 この鬼のようなリストラの効果もあってルネサスは黒字浮上したが、工場関係者を中心に社員数を3万人以上も減らしたため、製造装置の安全管理が非常に手薄になっていた可能性がある。

 また、2月13日の地震以降、世界中で車載半導体が逼迫している事態を受け、それまで60%程度だったルネサス那珂工場の工場稼働率をフル稼働にしようとした。以上の結果、もしかしたら保護回路が壊れているかもしれない製造装置を、安全点検を軽視もしくは無視して、少ない人員で急いで立ち上げていったかもしれない。その過程で、今回の前代未聞の火災が起きた――とは推測できないだろうか。

 火災の真の原因は、いまだ不明である。しかし、車載半導体の供給不足と自動車産業の苦境は今後も続く。10年間で3万人も社員を減らし、ファブライト化したツケは非常に大きいのではないか。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

●湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。

・公式HPは http://yunogami.net/

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