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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

タリーズ、コメダのお膝元で名古屋めし発売の狙い…持ち帰りに注力、コッペパンでも大激戦

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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あんこを用いたドリンクメニュー(提供:タリーズコーヒージャパン)

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 4月7日、タリーズコーヒージャパンから東海3県(愛知県・岐阜県・三重県)限定で興味深い商品が発売された。5月9日までの期間限定だが、まずはその一部を紹介しよう。

<ドリンク>
・「苺あんラテ」(ホット/アイス)。トールサイズのみで価格は649円(税込み/以下同)。
・「苺あんミルク」(ホット/アイス)、苺あんラテのエスプレッソなし。サイズ、価格は同上。
・「米米あんスワークル」(フローズン)。サイズ、価格は同上。

<フード>
・「あんバターコッペ」「いちごホイップあんコッペ」、各385円。
・「もっちり鬼まんじゅうパン」、352円。
・「味噌カレードーナッツ」。330円。

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「あんバターコッペ」(左)と「いちごホイップあんコッペ」
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「もっちり鬼まんじゅうパン」
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「味噌カレードーナッツ」(いずれもタリーズコーヒージャパン提供)

 ご当地の喫茶店メニューで使われる「小倉あん」や「味噌」といった食材を用い、いわゆる“名古屋めし”を思わせるメニューだ。同時にブラジル珈琲やマグカップも開発した。

喫茶王国に「レトロ喫茶型商品」を訴求

 なぜ、こうした商品を開発したのだろうか。

 タリーズコーヒージャパンでマーケティングを担当する柳生剛氏(マーケティング本部マーケティング第一グループ ビーンズ・パッケージプロダクト・プロモーションチーム)は、こう話す。

「今回の商品は『RETRO TULLYS COFFEE』の取り組みです。タリーズは『地域社会に根ざしたコミュニティカフェとなる』を経営理念のひとつに掲げ、そのプロモーションとして地域の方に親しまれる限定企画や商品を展開してきました。北海道からスタートして10回目の今回は中部エリア。特に喫茶文化の根づく東海3県を対象に『レトロな喫茶店にあるような、可愛い商品』を開発し、それに合わせたマーケティングをしています」

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「レトロ喫茶店」のPOPも手づくりした(筆者撮影)

 さらに、こう続ける。

「平成11年のデータですが、愛知県名古屋市内には約4000店の喫茶店がありました。近年の総務省統計局調査でも、名古屋市と岐阜県岐阜市は『喫茶店に支出する額』が年間1万円を大きく超え、他の都市を圧倒しています。そんな喫茶文化にも敬意を表しつつ、商品で訴求しました」(柳生氏)

 ちなみに、喫茶店の数が全国最多は大阪府で、次が愛知県。「大阪は喫茶店数が多いが、喫茶店支出にカネを使わない地域」だ。名古屋や岐阜が喫茶店で有名なのは一般的となったが、愛知県の公式サイトでも「愛知県は喫茶店王国?」として紹介されていた。

店舗数で競う「コメダ」の本拠地に殴り込みなのか

 人口約230万人の名古屋市は、コメダ珈琲店の本拠地(本社は同市東区)でもある。

 実は、国内のカフェ店舗数で、タリーズとコメダは競い合う。長年、タリーズが上位だったが、コメダが拡大。最新の店舗数(いずれも公表数値)は、コメダが873店(2020年2月末)、タリーズが767店(2021年3月1日)だ。

 ちなみに、店舗数1位は「スターバックス コーヒー」で1628店(2020年12月末)、2位は「ドトールコーヒーショップ」の1081店(2021年2月末)。国内のカフェチェーンで1000店を超えるのはこの2ブランドだけで、コメダは3位、タリーズは4位となっている。

 そのコメダの本拠地に「タリーズが名古屋めしメニューで殴り込み」なのかと思い、聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「競合としてのコメダさんは意識していますが、基本的な立地や客層は異なります。タリーズが出店するのは、大都市でも駅前のビルイン(ビル内店舗)がほとんどです。客層も女性客が多く、若い大学生や会社員にも多くご利用いただいています」(同)

 最近はコメダも都心型店やビルイン店が増えたが、もともとコメダが得意なのは「郊外型店」で、客層は「家族客や年配客」だ。逆に、大型駐車場を完備した一戸建てのタリーズ店舗や、新聞を広げながらタリーズ店内で飲食する年配客、の姿はイメージできない。

 ちなみに「名古屋駅、タリーズ」で検索すると「大名古屋ビルヂング店」などが出てくる。2016年3月に大型商業施設・オフィスビルとしてリニューアル開業した同ビルは、名古屋駅前の超一等地にある。ビル内にあるタリーズは、コメダ店内の雰囲気とはかなり違う。

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リニューアルされた大名古屋ビルヂング(2015年、筆者撮影)

「新たな人気商品」をつくりたい

「限定商品の狙いはそこ(対コメダ)ではない」という柳生氏に、今回の“名古屋めし”の位置づけを聞いた。

「送り手側としては、新たな人気商品を育成したいのです。これまでの『RETRO TULLYS COFFEE』では実績があります。たとえば、2015年に北海道で発売した『タリーズ スノーマン ラテ』は大ヒットし、2017年と2018年には期間限定で全国展開商品に昇格、2020年1~3月には、山陰・北陸エリアの『タリーズ スノーマン パレード ラテ』という限定商品でも販売しました」

“名古屋めし”といえば「溶き卵を敷いたナポリタンスパゲティ」も有名だが、今回の商品には入っていない。

「アフターコロナを意識して『個包装で持ち帰り』できる商品に絞りました。タリーズはパスタメニューも支持されていますが、今回はパンメニュー中心となっています」(同)

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「スノーマン ラテ」商品も進化した(提供:タリーズコーヒージャパン)

名古屋の喫茶店は「オトク」と「オマケ」も特徴

 日本のカフェ・喫茶店を生活文化の視点でも考察する筆者は、10代まで愛知県で暮らした。その経験も踏まえて感じるのが、名古屋(地域)の喫茶文化は「オトク」と「オマケ」も特徴なこと。「愛知モーニング」「名古屋モーニング」と呼ばれるモーニングサービスは、その代表例だ。朝の時間帯にドリンクを頼めば無料でつくトーストやゆで卵は、いまや全国的に有名となった。タリーズの「モーニングサービス」は何だろう。

 今度は広報担当の山口さほり氏(秘書室広報チーム チームリーダー)が、こう説明する。

「タリーズでは東海3県に限らず、朝の時間帯にモーニングセットを提供しています。また、新規開業やリニューアルした店のオープンなど、何かのイベントの際に先着限定で粗品を配るなどのサービスも行います。しかし、オマケ文化と真っ向勝負をしたいわけではなく、あくまでタリーズ流で考えています。朝の開店直後からパスタや温かいパンメニューを提供するのも、“モーニングサービス”といえるかもしれません」(同)

 名古屋市内で創業半世紀を超える、人気喫茶店の創業者(現会長)に話を聞いたことがある。昭和30年代の創業以来、名古屋にありながら「無料でつくモーニングは一切やったことがない」と断言した。「その代わり、朝の7時から自家焙煎したコーヒーを1杯ずつハンドドリップで淹れるのが、ウチのモーニングサービス」と語っていた。

競合が力を入れる「コッペパン」をどう育てるか

「北関東での地域限定から定番商品となったメニューとしては、『極厚ハムカツサンド』もあります」と話す柳生氏。今回の東海3県限定で期待する商品は何なのか。

「コッペパンですね。レトロブームでコッペパンの人気が高まっており、個人店以外に大手が運営する専門店も広がっています。具材の工夫もでき、魅力的な商品だと思います」(同)

 首都圏を中心にコッペパン店を展開する「パンの田島」という店は、ドトール日レスグループが運営する。コメダもコッペパンには力を入れる。もともと岩手県盛岡市の「福田パン」に代表される個人経営の店が人気だったが、近年は大手も熱い視線を注ぐ。

 筆者はコッペパン取材もしてきた。「大きく、惣菜系と甘いもの系と分けられ、パンの風味に加えて、具材次第でまったく違う味に変わるのが魅力」(パンの田島)だという。タリーズが、今後どう展開していくかも注目したい。

外出自粛で打撃を受けた「カフェ」に、お客が戻るのか

 経営の視点でいえば、コロナ禍での店舗休業や営業時間短縮の影響もあり、2020年度のタリーズコーヒージャパンの業績は厳しい見通しだ(同社の決算発表は5月以降)。1997年に日本1号店を開業以来、年々業績を拡大してきた同社には正念場となりそうだ。

 緊急事態宣言が解除された現在、カフェにお客が戻るのだろうか。

 筆者は戻ると考える。巣ごもり中の消費者にも話を聞いてきたが「気兼ねすることなく楽しく外食がしたい」という声が多い。店もお客も引き続き、コロナウイルスへの対策が必要だが、「手軽な価格で楽しめて」「自宅ではない雰囲気が味わえる」外食への渇望感があるのだ。

 そう考えると、喫茶メニューに対して目の肥えた東海3県の消費者が、タリーズの限定商品をどう評価するか。同社にとって「テストマーケティング」の場でもある。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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マーケティングを担当する柳生氏(右)と広報を担当する山口氏(左)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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