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視聴率30%超え…“キックの鬼”沢村忠が引退後に姿を消した理由と真空飛び膝蹴り秘話

文=織田淳太郎/ノンフィクション作家

必殺技「真空飛び膝蹴り」の本当の意味

 一旦、信頼関係を結んだ人間に対して、沢村さんはとことんまで面倒見が良かった。私は1998年にうつを発症して1カ月の入院生活を送ったが、沢村さんは何度も見舞いに足を運んでくれた。退院時には車で私を迎えにきてくれ、私の自宅での退院祝いにも参加してくれた。

 左ハンドルの外国車に憧れる私のために、自分の愛車ボルボを無料で譲ってくれたこともある。買ったばかりの中古キャンピングカーを手に余し、それを売ろうにも二束三文にしかならず悩んでいた私のために、高値で引き取ってくれる業者を探してくれたのも沢村さんだった。

 2人でキックボクシングジムを訪問したときは、私に「真空飛び膝蹴り」のやり方を伝授、指導してくれた。垂直に飛び上がり、相手の顎や首筋に膝を叩き込むこの必殺技に関して、沢村さんは私が思いも寄らない秘話も教えてくれた。

「一撃必殺と言われてるけど、実はこの技“武士の情け”なんですよ。ただでさえ弱っている相手を無用に攻め続けて、これ以上傷つけるわけにはいかないでしょ。だから、この一発で楽になってもらうんです」

 かつて、不躾な張り込み取材にも関わらず、沢村さんは引退以来長く姿を消していたその理由と心情を、新米ライターである私に打ち明けてくれた。その全容はのちに総合スポーツ雑誌の「Number」(文藝春秋)に掲載されたが、この記事をきっかけに、私はノンフィクション作家としての足がかりをつかむことができた。

 しかし、私にとって何よりもうれしかったのは、沢村さんが私のような若輩ライターに心を開いてくれた、その理由の方だったかもしれない。

「目は人を映すんです」

 と、沢村さんはいつか口にした。

「初めて会ったとき、君は僕の目をずっと見つめながら話をしてくれた。その目を見て、僕は君の人間性を確信したんです」

 一人の作家である前に、一人の人間として私に贈られたこの言葉は、私にとっての最高の勲章であり、かけがえのない宝物になった。

 沢村忠さん、ありがとうございます。大切なことを、たくさん教えてもらいました。天国で安らかにお休みください。

(文=織田淳太郎/ノンフィクション作家)

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