高橋暁子「ITなんかに負けない」

もうSNSやりたくない…学校教師、生徒・保護者との“SNSやりとり問題”複雑化&深刻化

「Getty Images」より

 教員のSNS利用はとても難しい。なかでも、教師と児童生徒間の私的なSNSのやり取りは近年問題となっている。それだけでなく、SNSでも教員としての振る舞いを求められるため、私的な利用自体が容易ではない。教員と児童生徒間のSNSでのやり取りと教員のSNS利用について考えていきたい。

わいせつ行為につながる私的やり取り

 2019年度にわいせつ行為やセクハラなどで懲戒処分を受けた公立の小中高校などの教員は273人で、過去2番目に多かった。

 読売新聞は、2019年度までの5年間に教え子へのわいせつ行為などで処分を受けた公立学校教員について全国調査を行っている。それによると、懲戒処分を受けた496人のうち、少なくとも241人が教え子らとSNSなどで私的なやり取りをした上で、わいせつ行為を行っていた。

 萩生田文部科学相は部活動の一斉連絡にSNSを利用していることに理解は示しつつも、「教職員が児童生徒とSNSによる私的なやりとりをすることはあってはならない」と、今後教育委員会に適切な対応を求めていくとした。

 その結果、教職員と児童生徒がSNSで私的なやり取りすることは懲戒処分とされる自治体が増えてきている。

続々禁止も、部活やいじめ相談に活用も

 たとえば静岡県教育委員会は、教員が児童生徒とSNSで私的なやりとりをすることがわいせつ事案を誘発していると判断。教員が児童生徒とSNSで私的なやり取りをした場合、懲戒処分の対象にする。早ければ2021年度の教員の処分規定に盛り込む予定だ。

 大阪府教育委員会も2020年12月、児童生徒にわいせつ行為をした教員は懲戒免職にすると発表。これまでは相手の同意がある場合などは免職としない例もあったが、対応を見直したかたちだ。わいせつ事案のきっかけになるとして、教員が児童生徒と電話やメール、SNSで私的なやり取りをすることも禁止としている。

 千葉県教育委員会も、2020年3月より、教員が児童生徒とSNSで私的なやり取りをした場合は懲戒処分とするよう、指針を厳しくしている。県内公立中学校の20代男性教諭が、LINEで女生徒とやり取りする中で好意を抱き、女生徒の身体を触るなどしたわいせつ行為で懲戒免職処分になるなどしており、事態を重く見たというわけだ。

 一方、部活動などの連絡などには、現状LINEなどが使われることが一般的だ。一斉に連絡するときなどにとても便利なツールであり、このような公的なやり取りには今後もSNSが使われる可能性が高いだろう。私的なやり取りと公的なやり取りの線引が重要となりそうだ。

 また、文部科学省の「令和元年度児童生徒の問題行動等調査結果」によると、いじめられた児童生徒の相談先(複数回答)は、「学級担任に相談」が80.8%、「保護者や家族等に相談」が21.6%、「学級担任以外の教職員に相談(養護教諭、スクールカウンセラー等の相談員を除く)」が7.4%、「友人に相談」が6.6%などとなっている。

 SNSでならば本音が言えるという子どもたちがいる。SNSはいじめ相談等にも使われている可能性があり、今後、そのような子どもたちをどのようにフォローしていくかということが課題だろう。SNSでいじめなどの相談を受け付けている相談機関の周知が緊急の課題ではないだろうか。

炎上につながるも指導に必要

 教職員のSNS問題は、生徒とのやり取りだけではない。教員がプライベートでSNSを使うこと自体で問題が起きることがある。

「学校に教育実習生が来たら、まず何よりも一番最初にSNSの使い方について指導している」と教員に聞いた。教育実習生が児童生徒と写真を撮り、SNSに投稿するなどのトラブルが相次いだためだ。子どもの写真は撮影・投稿しないこと、児童生徒の個人情報や学校で知り得たことを書き込んだりしないことなどの指導が必要な時代というわけだ。

 教員が保護者とSNS上でつながり、トラブルになった事例もある。「SNSで申請をもらったので保護者とつながったら、他の保護者に『贔屓してる』と言われた。そういうふうに見られるとは考えていなかった。慌ててつながっていた保護者に訳を話して解除してもらった」とある教員は言う。一部の保護者とだけ親密と見られることで、思わぬトラブルになることもあるのだ。

 教員が生徒や学校の不満、悪口などをSNSに書きこむ例も少なくない。2017年、埼玉県の20代の中学校教員が、匿名の男子生徒になりすまして、ある女生徒について「顔で損してるよな」「あの体形、あの嫌われようでよく学校来れると思う」などと投稿していた。匿名だったが同校の生徒等のアカウントを多数フォロー、女生徒の悪口を書くなどしており、特定されてしまった。他にも、生徒の個人情報を書き込んでしまったり、不満を書き込んでトラブルになった教員もいる。

「教員は振る舞いに注目されやすい。トラブルのもとになるから、退職するまではSNSは使いたくない」とある先生が言っていた。このように考えてスマホやSNSは利用していない先生が少なくない一方で、指導上で必要とすることは増えている。最近の児童生徒のトラブルにはSNSがからむことが多く、人間関係トラブルやいじめなどの指導にはSNSの知識や指導も必要となっているのだ。

 LINEのやり取りは外から見えず、不適切なやり取りにつながることがあるため問題となるが、TwitterやInstagramなどは逆に不特定多数に見られることで守秘義務違反や信頼を損ねる行為で問題になっている。

 一方、SNSは児童生徒の問題が見える貴重な場でもあり、理解していることで指導がしやすくなる可能性が高い。求められることが多く難しい面があるが、うまく使って指導につなげていただければ幸いだ。

(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)

高橋暁子/ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授

書籍、雑誌、Webメディアなどの記 事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。 SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などが専門。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎) など著作多数。NHK『あさイチ』『クローズアップ現代+』などメディア出演多数。令和 三年度教育出版中学国語教科書にコラム掲載中。


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