ビジネスジャーナル > 企業ニュース > コンサート、奏者がドタキャンしたら  > 2ページ目
NEW
篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックコンサート、ソリストがドタキャンしたらどうなる?観客が知らない壮絶な舞台裏

文=篠崎靖男/指揮者

 また話が逸れてしまいますが“コンサートあるある”として、ヴァイオリン好きな客は、前半のヴァイオリン協奏曲が終わったあとも、オーケストラのヴァイオリン奏者が大勢で演奏している後半の交響曲をそのまま楽しんでくださるのですが、ピアノ好きの客のなかには、残念ながらピアノ以外にはまったく興味がない方も多く、前半のピアノ協奏曲を聞いたら、後半を聞かずにそのまま帰ってしまう人も結構いるようです。

 さすがに、こんなことは日本ではあまりないとは思いますが、僕が毎年指揮をしているフィンランドのような、演奏会チケットがとても安い国々でコンサートを指揮していると、前半のピアノ協奏曲の際には観客席は満席だったのに、後半の交響曲の時にはいくつも空席があるというようなことが起ったりします。帰ってしまった観客にとっては、ピアノさえ聴ければいいわけですが、後半の交響曲に力を入れている指揮者としては、悔しい思いをするのです。

ソリストの代役探し

 さて、歌手がソリストの場合も、客層はピアノ愛好家とよく似ています。それは、声楽曲だけが好きで、オペラはもちろんオーケストラ公演でも歌手だけを目当てに前売り券を買っている方々が一定数いるからです。

 軽い風邪くらいならば、器楽のソリストはなんとか出演する場合が多いのですが、歌手の場合は声が出なくなるのでキャンセルとなります。そんな歌手好きの観客がチケットを購入しているのですから、現代曲のように代わりの歌手が見つからないからといってピアニストとピアノ協奏曲をするわけにはいかず、なんとか歌手を見つけてポピュラーなモーツァルトの歌曲などでお茶を濁してもらうこともあります。大多数の観客にとっては、モーツァルトのほうが楽しめるかもしれませんが。

 ここで、運の良いことにプログラムを変更せずに歌ってもらえる代役の歌手が見つかったという嬉しいニュースが入ったとしても、さらに大きな問題が立ちはだかります。それは、厳密に決まっているオーケストラ楽員の労働時間です。

「今、歌手が見つかりました。急いで飛行機に乗ってもらえれば今日中には来られるので、また夜にリハーサルに集まってください」などと言うことはできません。そこで翌日、すなわちコンサート当日のゲネプロ(実際のホールでの最終リハ―サル)の短く限られた時間で、さっと合わせて本番を迎えることになります。そんな時の緊張感は大きく、指揮者だけでなく、オーケストラの楽員もいつもとは違った固い顔になっています。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

●オフィシャル・ホームページ
篠﨑靖男オフィシャルサイト
●Facebook
Facebook

クラシックコンサート、ソリストがドタキャンしたらどうなる?観客が知らない壮絶な舞台裏のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!