チリ大学の研究者らは6日、「シノバック製ワクチンの有効性は54%だった」と発表した。54%という数字は、世界保健機関が示した有効なワクチンについての最低値(50%)をやや上回る程度にすぎない。これに対し、ファイザー製やモデルナ製のワクチンの有効性は90%を超えており、アストラゼネカ製のワクチンの有効性も約80%である。
統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によれば、ワクチン接種率が20%以上と比較的高いにもかかわらず感染者数が一向に減少しない国の相当数が、中国製ワクチンを使用しているという。中国製のシノファームワクチンを主に接種しているバーレーン(接種率は約30%)、ハンガリー(約25%)、セルビア(約22%)やシノバックワクチンを主に接種しているウルグアイ(約21%)などがこれに該当する。
ブラジルで大量に発生しているとされる変異ウイルスの影響を指摘する声もあるが、接種率が高いのに感染状況が改善しないのであれば、接種しているワクチンの有効性との関係を調べる必要があるだろう。
ADEが生じれば重症化するリスク高まる
中国企業が開発したワクチンは、不活化ワクチンである。熱や化学物質(アンモニアなど)で不活化した(殺した)ウイルスを体内に投与して抗体をつくるという従来の製造方法である。この手法はインフルエンザワクチンなどで使用されていることから信頼性が高いとされている半面、有効性が低いとの見方がもともとあった。インフルエンザウイルスに比べて増殖のスピードが遅い新型コロナウイルスの場合、体内で発生する抗原が少なく、抗体ができにくいからである。
欧米製ワクチンは変異株への対応を検討しているが、中国製ワクチンは変異株に対する対応を迅速に行えない可能性もある。
「アストラゼネカ製ワクチンは血栓症を起こす」と問題になっているが、ワクチン接種後の副反応で最も懸念されているのは「ADE(抗体依存性感染増強現象)」である。ワクチン接種によってつくられた抗体がウイルスの細胞への侵入を防ぐのではなく、逆に細胞への侵入を助長する現象のことである。ADEが生じれば重症化するリスクが高くなる。
新型コロナウイルスと遺伝子情報が類似しているSARSウイルスの不活化ワクチン開発の際にADEが生じたことから、「新型コロナウイルスの不活化ワクチンでも同様の問題が起きる」ことを懸念する専門家は少なくない。中国製ワクチンは、「感染防止」に役立たないばかりか、ADEのリスクが高まる危険な代物なのかもしれない。
新型コロナウイルスのワクチン不足が世界的に高まる中、中国は国内の感染者数が少ないという利点をいかしてワクチン輸出の攻勢に拍車をかけているが、はたして大丈夫なのだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)