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藤和彦「日本と世界の先を読む」

ミンク、トラ、ワニ…中国の「野生動物農場」の実態、コロナウイルス拡散の起点

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
ミンク、トラ、ワニ…中国の「野生動物農場」の実態、コロナウイルス拡散の起点の画像1
「Getty Images」より

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は4月12日、「新型コロナウイルスのパンデミックは終息にはほど遠い」と警鐘を鳴らした。

 新型コロナウイルスワクチンの世界全体での接種は4億回を超え、接種率が高い一部の国では状況が大幅に改善されているが、WHOによれば、4月5日から始まる週の世界の感染者数は前週比9%増と7週連続で増加し、死者数も5%増となった。

 状況が特に悪化しているのはインドである。新型コロナウイルス感染者の累計数は1350万人を超え、ブラジルを抜き世界で2番目の多さになっている。感染の急拡大に慌てたインド政府は、3月末に国内で生産されるワクチンの輸出を制限したことに続き、11日には「(新型コロナウイルスの治療薬である)レムデシビルとその薬剤成分の輸出を当面禁止する」と発表した。

 変異株の感染拡大も懸念材料である。英国で発見された新型コロナウイルスの変異株は日本でも感染再拡大の原因となっているが、研究が進むにつれて「感染力が強いが、重症化には影響しない」ことがわかってきている(4月13日付CNN)。

 一方、南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異株は、現在接種されているものの中で最も有効性が高いとされる「米ファイザー製ワクチンが提供する免疫をすり抜ける恐れがある」との調査結果が出ている(4月12日付ロイター)。

 変異株向けのワクチンの開発が始まっているが、厄介な変異株のせいで世界規模の感染急拡大が再び起きる可能性は排除できない。米中両大国の対立も暗い影を落としている。ブリンケン米国務長官は10日、「昨年の流行初期段階での中国の不備が世界の感染拡大を著しく深刻化させた」と批判したのに対し、中国外務省は13日「米国の疾病対応は完全な失敗だ」と反論するというやりとりがあった。コロナ禍をめぐる米中の非難合戦がますます激しくなっているが、そのとばっちりを受けているのがWHOである。

生きた野生哺乳類の取引禁止

 WHOは新型コロナウイルスの起源に関する報告書を3月30日に公表したが、「重要な記録や生物学的サンプルにアクセスできないまま、中国の未発表の研究結果に基づいた結論になっている」との国際社会からの反発を踏まえ、テドロス氏は追加調査を実施する意向を明らかにしたが、詳細は未定のままである。

 報告書の中では「新型コロナウイルスはコウモリから別の動物を介して人間に感染した可能性が最も高い」とされているが、WHOの調査団は野生動物が取引されていた武漢の海鮮市場で感染拡大を引き起こした決定的な証拠をつかんでいない。

 しかし、手がかりがまったくないわけではない。WHOロシア代表のブイノビッチ氏は5日、「感染した人と接触したミンク、犬、猫、ライオン、トラ、狸などが陽性反応を示したことがわかっている」とした上で「未来の感染症の発生を予防するためには、どの種類の動物がウイルスに感染しやすいかを把握することが重要である」との認識を示している。ロシアでは3月末に動物用の新型コロナウイルスワクチンが世界で初めて承認されている。動物用ワクチンの試験は、犬、猫、ミンク、キツネなどを対象に昨年10月から実施されたが、人から新型コロナウイルスを感染した動物の中で新たな変異株が発生するのを防止するのが狙いだとされている。

 WHOと国際獣疫事務局(OIE)、国連環境計画(UNEP)は12日、「感染症を予防するため、生きた野生の哺乳類の食品市場での販売を停止する」ことを各加盟国に求める指針を発表した。食肉を処理する際などにウイルスが拡散する可能性が高いことから、野生哺乳動物は人間の新興感染症の70%以上の原因となっているというのがその理由である。指針では、「効果が実証可能な規制」などを導入できなければ、生きた野生哺乳類の取引を禁止し、売り場を閉鎖すべきだとしている。

中国の協力が必須

 だが、この指針を実効性あるものにするためには中国の協力が不可欠である。中国には野生哺乳類を飼育する農場が多数存在しているからである(3月31日付ナショナルジオグラフィック)。パンデミック以前は飼育農場から、生きたハクビシン、タケネズミ、ワニ、ヤマアラシ、ヘビなどが市場を経由して飲食店に大量に販売されていた。多くの野生動物農場はコウモリが生息する原生地域に隣接しており、飼育されている動物たちはコウモリの排泄物から容易に感染しうる状況にあった。ウイルスが野生動物農場に侵入すれば、個体から個体へと感染する過程で変異を起こし、個体が市場に到着する頃にはウイルスは人に感染できるまでに進化していくことだろう。

 今回のパンデミックを受けて、中国政府は昨年2月、食用の野生動物の販売と消費を禁止した。昨年末には食用の飼育場をすべて閉鎖したとしているが、伝統薬や毛皮などの目的での飼育は容認している。

 漢方薬の成分に必要なトラ牧場は中国に200カ所以上あるといわれている。欧州ではミンク飼育場で新型コロナウイルスの集団感染が発生したが、中国のミンク市場の規模は大きく、2019年には1100万着以上の毛皮が生産されているという。禁止されたとはいえ、野生動物の食用のための販売がひそかに再開されている可能性もある。

 パンデミックからすでに1年以上が経過しており、感染ルートを特定することは困難かもしれないが、次の動物由来の感染症を防止するために中国は最大限の協力をすべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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