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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

“女子アナ不倫疑惑”社長失脚の静岡新聞騒動が、大手メディアを震撼させた理由

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
“女子アナ不倫疑惑”社長失脚の静岡新聞騒動が、大手メディアを震撼させた理由の画像1
静岡新聞・SBS公式サイトより(現在は当該ページは削除済)

 3月5日発売の週刊誌「フライデー」(講談社)が報じた静岡新聞のオーナー社長で静岡放送もたばねる大石剛社長(51・当時)と静岡放送・原田亜弥子アナウンサー(40)の“不適切な関係”疑惑。静岡のメディア王のスキャンダルは予想外の反響を呼んだ。

「フライデーのスクープは、週刊誌やネットメディアも後追いする話題のニュースとなりました。なぜ地方メディアのニュースがここまで話題になったのか。フライデーの取材に『撮るんなら1ヶ月くらい見てくんない? いっぱい女がいるからね。俺、そこそこモテるのよ』などと奔放に語った大石氏のキャラクターが大きかった。つまり読んで面白い記事だったからです」(メディア編集者)

 近年、メディアの特権階級ぶりやエリート意識に対する不信が読者層の間で燻っていると言われている。大石氏の奔放な言葉は、そうした不信に拍車をかけるものとなったことも記事が話題となった背景にはあっただろう。もし彼が『広報を通してくれ』とノーコメントでやり過ごしていたら、展開はまた違ったはずだ。記事は地味なスキャンダル記事に終わり、ここまでは話題は広がらなかったはずだ。

 大石氏はフライデー記者を飲みに誘い「俺、田舎の人間だぞ! 田舎の人間追っかけて何が楽しいんだよ」と聞いている。なぜ自分が週刊誌の標的になったのかが不思議でならなかったのだろう。

 記事の背景を分析していくと、“リーク”という結論に行く着くことになる。なぜか。その理由の一つは、写真をバッチリ撮られていたことにある。東京の週刊誌が、土地勘のない地方企業のスキャンダルを取材することは稀だし、ましてや「長期張り込み」をするということはまずありえない。長期間の張り込みを行うのは全国区の有名人であるという条件を満たしたときだけである。

 つまり今回のスキャンダルは、<○○氏と女性がこの日、この場所で会っている>というレベルのピンポイント情報がなければ成立しないものだといえる。大石氏の親しい知人か、静岡新聞もしくは静岡放送の社内からリーク情報がもたらされた、というのが結論となるのだ。

メディア改革とリーク

 実は筆者はフライデー記事が出る直前、大石氏や静岡新聞社員の取材をしたばかりだった。取材では大石氏の主導のもとで行われた全社的な社内改革や、静岡新聞が発表した「イノベーションリポート」の作成経緯などについて話を聞いた。

 マスコミ、特に新聞やテレビの経営数値が悪化していくなか、どの社においても改革は必須事項といえる。そのなかでも新しいチャレンジを始めた静岡新聞の改革には、注目すべき点が多々存在するように思えた。実際に静岡新聞における改革は、試行錯誤の末に「トップダウン改革」から「全社的改革」つまりボトムアップを促すような改革に移行する段階まで来ていた。

 一方で問題が残されていたのが静岡放送のほうだった。社員の意識改革が進んでおらず多くの課題が残るままとなっており、大石氏自身も「静岡放送の改革はまだまだ」と筆者に答えていた。その矢先のスキャンダル報道だっただけに、筆者は静岡放送内の“社内闘争”がフライデー記事の呼び水になったのであろう、という感想を持っている。

 実はメディア改革にはリークが付き物だといえる。餅は餅屋というように、メディア人はやはりメディアの使い方をよく心得ている。社内や社長への不満があれば他のメディアを動かして記事を書かせるということは、よくある光景である。

 静岡新聞が改革の参考にした米紙ニューヨークタイムズでもこういう事例があった。ニューヨークタイムズは社内改革に着手する際に、社員有志10名が2014年に社内向けにイノベーションリポートという調査レポートを作成した。イノベーションリポートは同社の問題点について内外500名あまりを取材し、指摘した極秘文書だった。それがある日、メディアにすっぱ抜かれたのだ。極秘文書であるはずのイノベーションリポートの内容が、である。その理由は、改革の抵抗勢力であった幹部を「更迭」するためのリークだったと言われている。

 今回のケースはニューヨークタイムズとは逆のこと、つまり改革を断行しようとした社長を追い込むためのリーク、改革潰しのためのリークが行われた、ということなのだろう。

 週刊誌がリーク情報を記事にするのは、当然のことだ。しかもフライデーが地方メディアの地味な話題だったはずのネタを、素晴らしいエンターテイメント記事に仕立て上げたことは「お見事」と言うしかない。

“課題”を突き付けられたのは書かれた側である。ニューヨークタイムズの場合、リークにより社内改革が進み古い体質のまま沈んでいた新聞というメディアのDX(デジタルトランスフォーメーション)化に成功するという輝かしい果実を得た。いまやニューヨークタイムズはメディアのトップランナーとなっているのは周知の通りである。

 翻って今回のケースはどうだったか。記事により「とんでもない会社」というイメージが全国に広がってしまった。社内も大混乱となったはずだ。単に誰かの保身や抵抗のためであったとするならば、会社にはダメージしか残らなかったということになりかねない。

静岡新聞・静岡放送の改革の行方

 巷で言われているように大石氏が“ワンマン経営者”や“暴君”であったということは事実である部分と、そうではない部分があったと思う。筆者の取材時の印象は、報道されたような暴君めいたものではなく、気難しいところもあるが社員を思いやる優しさも持つ経営者というものだった。ただ今回のフライデー報道が、静岡新聞や静岡放送の企業価値を損なうものであったことは間違いない。「李下に冠を正さず」という格言があるように、社内改革を進めていくのであれば相応の危機管理意識を持っておくべきだった、とは言えるだろう。

 報道から約1週間後、大石氏は静岡新聞・静岡放送両社の社長を辞任し、静岡新聞社の「代表取締役顧問」、静岡放送の「非常勤取締役」に就くことが公表された。はたして今後、同社の改革路線の行方にどのような展開が待っているのかは改めて注目されるところである。

 今後、大手新聞社やテレビ局をなどの中央メディアでもリストラや改革の動きが活発化していくことが予想される。同時に社内闘争も激化し、リーク合戦が行われるという事態も増えていくだろう。

「うちでも派閥争いの煽りを受けて『〇〇のスキャンダルはないか?』との声が聞こえてくるようになり、情報合戦が始まる気配が漂っています。そこに揺るぎない“正義”があればよいのですが、内向きの闘いの末に視聴者に見放されるなんてことにならないか、と不安も覚えます」(テレビ局社員)

 静岡新聞や静岡放送で巻き起こったリーク騒動は、メディア変革時代の波乱を予感させる静かなる序章だったといえるのかもしれない――。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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