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藤和彦「日本と世界の先を読む」

米国、なぜ投票権制限の動き?銃規制強化などを妨げる米国議会特有「フィリバスター」

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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 投票権の制限は、今後の人口動態変化によって不利になると考えられている共和党にとって「生き残り」をかけた秘策であり、ジョージア州のほか、アリゾナ、テキサス、フロリダ、アラバマ、ウィスコンシン、ミシガンなどいずれも議会で共和党が多数を占める州で郵便投票や期日前投票、不在者投票などの規制に乗り出している。

 これに対し民主党も州レベルで投票権拡大などの対抗措置を講じようとしているが、連邦レベルでも投票権拡大に積極的である。下院では3月3日、多岐に及ぶ投票制度改善策を盛り込んだ法案が賛成多数で可決した。1960年代半ばのジョンソン民主党政権が成立させた「投票法改正措置」以来の大改革と位置付けられているが、フィリバスターのせいで上院での成立はおぼつかない状況にある。

 この問題でもフィリバスターが大きな障害となっているが、フィリバスター制度自体を廃止することは上院の過半数の賛成で可能である。手続き上のハードルは低いのだが、「一度廃止してしまうとその後は歯止めが効かない報復合戦になってしまう」との懸念から、フィリバスター廃止は「核オプション」という名で恐れられてきた。現在上院ではフィリバスター廃止に同意しない民主党議員がいるため、フィリバスターがただちに廃止されることはないだろうが、「投票総数で上回っても、自らが望む改革ができない」との不満が民主党内で高まるのは当然であり、予断を許さない状況にある。

160年前の状況に近似

 ジョージア州の投票規制法に話題を戻すが、この法律が反対派から「21世紀のジム・クロウ法の復活」と揶揄されているのは気になるところである。ジム・クロウ法とは、南北戦争後の19世紀末から1960年代まで南部諸州に存在した黒人の投票権を実質的に剝奪した州法の総称である。現在マイノリティーの投票権の制限に躍起になっている共和党だが、南北戦争直前に発足した当時は「奴隷制への反対」を掲げたいわゆるワン・イシュー政党だった。

 現在の共和党は南北戦争で駆逐したはずの「人種差別主義」という亡霊に自ら憑りつかれてしまったとの印象も強い。合衆国の結束を図るために奴隷制廃止に消極的だったリンカーン大統領の誕生が、結果的に国を分断する南北戦争のきっかけとなってしまったことは歴史の皮肉以外の何ものでもない。

 バイデン大統領が米国を再び分断させると断言するつもりはないが、投票制度を巡る米国内の対立の激化は、160年前の状況に近似しつつあるのはではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

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