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「東芝が非上場」ではなぜダメなのか?「有名企業なら上場すべき」の価値観の歴史を考える

文=菊地浩之
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戦後の財閥解体で一気に進んだ、有名企業の株式上場…そしてそのことが“有名企業の証”に

 日本が第二次世界大戦に敗れると、日本を占領したGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、ひと握りの財閥家族が日本の巨大企業を支配し、戦争に進んだと解釈。財閥解体を実施した。財閥家族の持つ株式を放出し、財閥本社を解散。その所有株式も株式市場に放出した。この過程で、財閥系企業のほとんどが上場企業になってしまった。ここに至ってはじめて、「上場企業=優良巨大企業」という図式が生まれたのである。

 そして、財閥解体を免れた巨大企業も、1950年代中盤以降の高度経済成長における資金需要の高まりから、株式を上場するようになった。そこで、オーナー一族は莫大なキャピタルゲイン(創業者利益)を手にすることになった。たとえば、非公開の50円株式を上場して、1000円の初値が付くとする。差額の950円はオーナーのポケットに入る。何百万、何千万単位の株式を上場すると、その利益は莫大なものになる。

 20世紀の日本では長者番付というものが公開されていたのだが、そのトップに躍り出たのは、株式を上場したオーナー一族が多かった。たとえば、ブリヂストンの石橋家、大正製薬の上原家などである。こうした、キャピタルゲインによる資産家の誕生を目にして、株式上場に否定的だったオーナーたちも、株式上場のメリットに目を向けるようになった。

 企業のトップが株式上場を目標に掲げ、従業員もまた上場会社勤務を夢見る。しかも、株式上場には厳しい審査項目があり、それをクリアすることが優良企業のお墨付きであるかのように考えられてくる。こうなると、もう上場するしかない――ってことだろうね。

大規模資金調達が不必要なためあえて上場しないサントリー、竹中工務店、講談社

 では、日本を代表する企業はみな上場企業か、換言するなら、非上場企業に有名企業はないか――といえば、これがあるのである。

 たとえば、サントリー、竹中工務店、講談社、日本生命保険などである。

 このうち、日本生命保険相互会社はそもそも株式会社ではないので、株式を発行しておらず、従って上場もない。相互会社というのは、保険会社に認められた独特の会社形式で、保険契約者の拠出金(=保険料)をもとに会社を運営していく仕組みだ。戦前は第一生命保険と富国徴兵保険(現・フコク生命保険)しかなかったのだが、戦後、ほとんどの生命保険会社が相互会社形式を採用した。その背景には諸説あるのだが、どうやらGHQが推奨したらしい。

 ただし1990年代以降、株式会社に転換する会社が増え、相互会社の元祖・第一生命保険も現在では株式会社になっている。相互会社は煩わしい株主対策がなく、買収の危険がないというメリットがあるのだが、機動的な資本調達ができず、経営危機に陥ったときに資本増強・資本提携ができないことがデメリットとして挙げられる。バブル崩壊後にバタバタと生命保険会社が破綻に追い込まれた一因にもなった。もっとも、それら生命保険会社が経営危機に陥った最大の原因としては、上場されていないから経営に対する外部からのチェック機能が働かず、放漫経営の挙句といったものが多かったのだが。

 保険会社は別として、サントリーや竹中工務店、講談社が非上場のままでいられるのはなぜかというと、そこまで大規模な資金調達の必要がないからだろう。

 酒類販売、建設、マスコミ・出版などの業種は、巨大資金を投入して工場を建設し、大量の資材を購入して――という業態ではなく、株式を上場して巨額の資金を動員しないと同業他社に負けてしまうという事態には陥らない。

 それならば、上場して買収の危険にさらされ、経営権が安定しないことよりも、非上場のままのほうがよいという経営判断だということができる。事実、非上場企業の多くは、経営者が世襲(もしくは、サラリーマン経営者が社長を務めていても、オーナー一族が支配権を保持していると想定される)というケースが多い。

 東芝の報道を見る限りでは、従業員も役員も「上場は善、非上場は悪」とばかりの感情的な論調が目立つが、何が会社にとっていちばんのメリットなのか冷静に考え直したほうがいいのではないか。株式の上場は資金調達の手段であって、目的ではないのである。

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