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 千代はラジオドラマに出演することを決心。久しぶりに台本を手にして、寝る間を惜しんで練習に励んだ。その様子を見ていた栗子は、ラジオドラマの初顔合わせの日に千代に花籠を渡した。これまで、事あるごとに千代に届いていた花籠の送り主は栗子だったのだ。

 栗子は、千代が女優になったとわかってから、ずっと見ていたと告白。涙ながらに、千代の芝居が好きで、役者に戻ることがうれしく、これからも応援するからがんばれと激励され、千代は思わぬ事実に驚きながらも、うれしさのあまり涙がこぼれた。

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 初顔合わせで、千代はもう二度と後ろを振り返らずに、前だけを見て女優道に邁進すると誓った。

脚本家・長澤のモデルは大阪を代表する文化人

 先週から登場した『お父さんはお人好し』の脚本家の長澤誠。演じるのは実力派俳優の生瀬勝久。優しくも奥行きのある演技で、好印象を残した。

 長澤のモデルとされるのは、実際に花菱アチャコと浪花千栄子のラジオドラマの脚本を務めた長沖一(ながおきまこと)。実は、1984年度に放送された朝ドラ『心はいつもラムネ色』のメインキャストのモデルにもなっている。

 大阪出身の長沖は東京帝国大学(現・東京大学)を卒業後に入隊するが、1年も経たずに除隊して大阪に戻り、吉本興業の文芸部で編集職に就いた。日中戦争時には「わらわし隊」という慰問団を結成。2017年度の朝ドラ『わろてんか』で、芸人たちが慰問のために結成した「わろてんか隊」のモデルとなっている。

 その後は作家業も始めて、小説や舞台に漫才の脚本を執筆。その傍らで、大学で教鞭を執った。小説家・放送作家・教授とマルチに活躍した、大阪を代表する文化人と言えるだろう。

『おちょやん』で千代は『お父さんはお人好し』で女優に復帰したが、千栄子は『アチャコ青春手帖』という作品で女優復帰を飾っている。こちらも長沖が脚本を務めており、アチャコが息子で千栄子が母親という設定のドラマだ。

『アチャコ青春手帖』の人気を受けてつくられた2作目はヒットに恵まれなかったが、3作目の『お父さんはお人好し』は絶大な人気を博して、映画化もされた。同作で2人は夫婦役を演じているが、あまりにも自然だったために、本当の夫婦だと思われていたというエピソードもいくつか残っている。それほど、息がピッタリ合っていたのだろう。

 今週は、ついにラジオドラマ『お父さんはお人好し』がスタート。おっちょこちょいなお父さん当郎と、やわらかい大阪弁を使うしっかり者のお母さん千代の陽気な掛け合いを楽しもう。

(文=安倍川モチ子/フリーライター)

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