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江川紹子の「事件ウオッチ」第177回

江川紹子が語る「東京五輪“即刻中止勧告”」…日本の主権はIOCに譲渡されたのか?

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 白血病による療養を経て、400メートルメドレーリレーで五輪代表入りした競泳の池江璃花子選手は、出場辞退や五輪反対の声を上げるよう求めるメッセージが寄せられていると明かし、「とても苦しい」と訴えた。選手に矛先を向けるのは筋が違うが、同選手は1年前のプレイベントに登場するなど、五輪実施のシンボルになってきたこともあり、開催を強行しようとするIOC、組織委、日本政府などへの批判を代わりに受けている格好だ。

 さらに、選手に批判的な人たちと選手を擁護する人々の間にも対立が生まれている。このように、五輪は国民の間に新たな分断を招いている。

 五輪のコロナ対策として、政府はほかに、選手らに出国前96時間以内に2回の検査を義務づけ、来日後も毎日検査を行うなどのコロナ対策を発表している。選手向けの医療施設も整え、感染が確認された場合の入院先として30カ所の大会指定病院を確保する予定、という。

 とはいえ、検査にも限界がある。五輪会場に予定されている東京・海の森水上競技場で今月初めに開かれたボートのアジア・オセアニア予選で、スリランカチームのスタッフ1人が新型コロナの陽性反応を示した。出国72時間前までに行ったPCR検査、日本入国時の抗原検査、大会前日の抗原検査はすべて陰性で、自覚症状もなかったという。

 選手・関係者への医療提供は、新たな批判を招いている。感染拡大に伴う医療とワクチン接種で、医療従事者にはただでさえ負担がのしかかっている。ワクチン接種の人手不足も指摘される。五輪のために医療スタッフを割く余裕はないのではないか。感染しても入院できずに自宅待機をよぎなくされる患者が増えれば、五輪のために病床を確保しておくことには、とうてい理解は得られまい。

大会期間中に日本を訪れる外国人は選手・コーチらが約1万5000人、報道陣などの関係者は約8万人

 医療関係者からも悲鳴が上がっている。

 東京・立川市の病院は、病棟の窓に「医療は限界 五輪やめて!」「もうカンベン オリンピックむり!」と大書したメッセージを掲げた。

 また、五輪では選手の行動範囲を競技会場と練習会場、選手村に限定し、外部との接触を遮断する「バブル方式」が採用される、という。これも、感染対策としては完璧とはいえない。実際、3月にハンガリーで行われたフェンシングの国際大会や4月にカザフスタンで行われたレスリングの2大会では、感染者が相次ぎ、日本チームの選手やスタッフにも感染が確認されている。

 一競技の大会でも難しいのに、東京五輪の競技数は33に上る。果たしてバブルは破綻せずに維持されるのだろうか。

 しかも、バブルを維持するための厳しいルールに対する意識は、国によって異なるようだ。5月10日付け日刊スポーツによれば、今月ブルガリアで行われたレスリングの世界選手権の状況について、日本レスリング協会の西口茂樹強化本部長は、「まったくマスクをしないでわめき散らす国が結構あります。バスのなかも、きちんとやっている国はやっているが、そこの差が激しすぎますね」と怒りをあらわにした、という。

 それでも、対策を組み合わせ、バブルでの管理を徹底すれば、選手らのリスクを減らし、選手と一般国民との接触も相当に抑制することは可能だろう。

 問題は、選手以外の関係者と一般人との接触である。

 4月25日付け読売新聞が報じた政府・大会組織委の試算では、大会期間中に日本国内を訪れる外国人は選手、コーチらが約1万5000人であるのに対して、報道陣などその他の関係者は約8万人に上る。バブル内で管理できる選手・コーチより、「その他」のほうがはるかに多いのだ。

 にもかかわらず、政府もメディアも、選手たちの対策は熱心に語るが、それ以外の来日外国人に対する対応については、情報発信があまりに少ない。

 たとえば報道関係者。さまざまな変異株が流行している国や地域からも、数万人に上る報道陣がやってきて、都内や周辺県のホテルに宿泊する。マラソン・競歩を取材するメディアは、札幌に移動し、そこに宿泊する。移動には、タクシーや鉄道、飛行機などの公共交通機関を使うこともあろう。宿泊や移動で、日本の一般人と接触する機会は避けられない。

 そして、ジャーナリストであれば、コロナ禍での五輪開催に、日本の人々がどう考えているのか、日本社会はどう対応しているのか、取材したいと考えるに違いない。いくら自粛を呼びかけても、海外の報道陣が、日本の従順な記者クラブメディアのように統制可能とは考えられない。

 この問題について、ラジオ・フランス特派員のニシムラ・カリン記者が、7日の菅首相の記者会見で、次のような質問をしている。

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11:30更新
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