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江川紹子の「事件ウオッチ」第177回

江川紹子が語る「東京五輪“即刻中止勧告”」…日本の主権はIOCに譲渡されたのか?

文=江川紹子/ジャーナリスト
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「海外報道陣は、いろいろな取材をするつもりです。政府が いくら厳しいルールを考えても、非現実的なルールなら意味がなくなり、当然、さまざまな問題が出てきます。数万人の行動を監視するのは、物理的に可能でしょうか」

 この問いに対し菅首相は、選手へのワクチンや検査、選手と一般国民の接触遮断など、選手への対策を繰り返すばかり。質問への直接の答えは、たったこれだけだった。

「それ以外の方は、さまざまな制約がある、水際も含めてありますので、そこは安全対策を徹底していきたいと思っています」

 実効性のある具体策は、なんら示されなかった。

メディア企業が五輪スポンサーである弊害…読売、朝日、日経、毎日の各紙は“オフィシャル・パートナー”

 こうした質問が、日本のメディアではなく、海外メディアの記者から出たのも、象徴的だ。

 一部メディアが、米ワシントン・ポスト紙に掲載された、スポーツジャーナリストのコラムを紹介した。コラムは、IOC幹部の強欲ぶりを酷評し、「強欲と法外なコストのせいで、五輪は開催国にとって重大災害と同じくらいの負担を強いられるイベントになっている」と、今の五輪のあり方を批判。開催都市は五輪関係者に無料で医療を提供し、病院に専用病室を用意しなければならないなどの負担を詳述し、こう書いている。

「日本は五輪開催に同意したとき、主権まで放棄したわけではない」
「世界的なパンデミックの最中に国際的メガイベントを開催するのは非合理的な決定」
「日本の指導者たちがすべきなのは損切り、しかもいますぐの損切りである」

 いちいちもっともな主張だが、悲しいのは、これが日本の大手紙ではなく、アメリカの新聞の発信であることだ。五輪の問題点を厳しく突く論評や今夏の開催に反対する社説を、日本の大手新聞社がみずから掲げないのは、これらメディア企業が五輪のスポンサーになっていることと無縁ではないように思う。

 五輪スポンサーは、提供する金額によって4ランクに分類されるが、読売、朝日、日経、毎日の各紙が3番目のオフィシャル・パートナー、産経と北海道は4番目のオフィシャル・サポーターとなっている。

 つまり、五輪開催について、これらメディアは客観的な立場ではなく、当事者なのだ。

 また放送も、NHKと民放キー局はジャパン・コンソーシアムとして、五輪の放送権を獲得している。この大イベントに対して客観的な立場とはいいがたい。

 その結果、多くの人たちは選手たちの感動的な物語ばかりを見せられ、IOCの金まみれの体質、今夏の大会を強行する理不尽さなどの問題を詳細に知る機会がない。

 そんな情報不足の状態でも、国民の多くは今夏の開催には否定的だ。各種世論調査を見れば、7割前後が今夏の五輪は「中止」または「延期」すべきと答える状態が続いている。読売新聞が今月初めに「延期」の選択肢を除いて行った世論調査でも、59%が「中止」と答えた。

 海外選手が日本各地で予定していた大会前の合宿も、相手国がキャンセルしたり、ホストタウンになるはずだった自治体が辞退したりするなど、中止が相次いでいる。

 海外からの観客受け入れを断念しただけでなく、日本の観客も入れない無観客の実施も視野に入った。

 もはや五輪開催によって日本の人々が受けられる恩恵はほとんどなく、負担ばかりがのしかかる。

 政府は一刻も早く五輪を断念し、ワクチン接種や医療提供体制の改善、事業者や生活が困窮している人たちへの支援など、コロナ対応に全力を尽くしてもらいたい。

 米紙コラムが書いているように、この国は、主権までIOCに譲り渡したわけではないのだ。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

(ワシントン・ポストのコラムの引用は、5月7日にクーリエ・ジャポンが公開した邦訳から行いました)

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

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