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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだ

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 豊富な資金があるということは凄まじい。アップルは、資金に任せて、人でも技術でも企業でも、買いたい放題である。それはもう、えげつないほどである。特にアップルのすぐ近くにあるテスラからは1000人以上(2000人くらい?)の技術者を引き抜いており、テスラのイーロン・マスクCEOは、「アップルは元テスラ社員の墓場だ」と皮肉を言っているほどだ。

 豊富なキャッシュは間違いなく、アップルの第1のストロングポイントである。しかし、それを超える「最強の武器」をアップルは持っている。それを説明する前に、既存の自動車メーカーが、アップルカーをどう見ているかを示しておこう。

アップルは脅威ではない

 ロイターは2021年2月14日、フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディースCEOが、アップルの自動車業界参入について「恐れてはいない」と強気のコメントを述べたことを報じた。同氏は「自動車業界は典型的なテック産業とは異なり、一打ちで席巻することは不可能」とまで言い切っている

 また2021年3月8日、BMWのニコラス・ペーターCFOはブルームバーグのインタビューで、「競争は素晴らしいことです。それは人のやる気を引き出すのに役立ちます」と言う一方、「(BMWは業界で)非常に強力な立場」にあるため、アップルが自動車市場に参入するとしても「私はとても安らかに眠ることができる」と発言している

 さらにその3日後の3月11日、アップルカーに対して、トヨタ自動車の豊田章男社長が、「完成車事業に参入することは、単純に自動車を作る技術だけを必要とするのではない。そのように作った車を顧客たちに販売するためには、よりするべきことがあるということを知るべきだ」と警告し、「アップルカーは作れるが、40年は準備せねば(ならない)」とクギを刺したことが報じられた。つまり、豊田社長は、「アップルにクルマビジネスは40年早い」と言いたいのだろう。

 以上のように、既存の自動車メーカーは、「アップルカーは脅威ではない」と発言し、「IT企業ごときに自動車ビジネスができるものか、40年早い」と見下しているのである。

 しかし、筆者の見方は違う。既存の自動車メーカーこそ、上記のような傲慢な態度をとっていると、やがて痛いしっぺ返しを食らうことになるだろう。

車載半導体の供給不足で明らかになったこと

 2021年に入って車載半導体不足が発覚したが、そこで明らかになったのは次の通りである。ドイツのインフィニオン、オランダのNXP、日本のルネサスエレクトロニクスなどの車載半導体メーカーは、40nm以降の先端プロセスをすべて台湾TSMCに生産委託している(図1)。

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだの画像2

 TSMCの出荷額において、車載半導体が占める割合はコロナの影響を受ける前の2020年第2四半期でたったの4%しかない(図2A)。それが同年第3四半期に2%に半減している。これが、クルマの減産を受けて、クルマメーカーのジャストインタイムの生産方式のために、インフィニオン、NXP、ルネサスなどがTSMCに車載半導体をキャンセルした影響である。そして、同年第4四半期に3%まで回復したが、あと1%が足りない。

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだの画像3

 これを車載半導体の出荷額で見てみよう(図2B)。コロナ前の2020年第2四半期の出荷額は4.15億ドルで、これが第3四半期に2.43億ドルに落ち込み、第4四半期に3.8億ドルまで回復した。しかし、コロナ前に比べると、3500万ドル足りない。

 TSMCの半導体出荷額の割合において、たった1%、出荷金額にして3500万ドル足りないだけで、2021年1月24日に日米独の各国政府が台湾政府に車載半導体の増産を要請する異常事態になった。その後、各国政府の要請に応えて、TSMCは2021年第1四半期にコロナ前の水準の4%に戻している(本当はやりたくなかったのではないか?)。

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