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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだ

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 要するに、クルマ生産に必要な車載半導体はTSMCがボトルネックになっており、クルマメーカーの生殺与奪権はTSMCが握っているというわけだ。ところが、そのTSMCが一切逆らえない企業がある。それはどこか?

TSMCを支配しているのはアップル

 冒頭で拙著EE Times Japanの記事を紹介したが、その文章の中で、TSMCについて以下のように書いた。

「10年位前の微細化は、欧州のアウトバーンを時速200kmでぶっ飛ばしているような感じだった。その後、微細化がスローダウンしてきたのは事実だが、それでもTSMCは田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばしていて、そのあぜ道の幅が年々狭くなってきており、ちょっと運転を間違えると田んぼに転落してしまうほど危うい。しかし、依然として時速100kmでぶっ飛ばし続けている」

 実は、ファウンドリーのTSMCには、ロードマップがない(意思がないと言っても良いかも知れない)。TSMCは、あくまで受託生産の半導体メーカーであるから、TSMCに委託する半導体設計会社(ファブレス)の言う通りに生産しているだけである。

 では、TSMCに「田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばさせている」のは誰かというと、それは、アップルである。TSMCは、「一見不可能とも思えるような微細化」をアップルから要求されて、必死になってそれに応えているわけである。

 それはなぜか?

アップル対自動車メーカー

 図3に、TSMCの売上高に占める企業別の割合を示す。TSMCにとっては、売上高の25%以上を占めるアップルが最大のカスタマーである。したがって、アップルがTSMCに鞭打って「田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばさせている」のである。

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだの画像4

 ここで、TSMCの売上高において、アップルと既存の自動車メーカーの比較を行ってみよう。TSMCの2020年第4四半期の決算報告書によれば、TSMCの2020年通期の売上高は451.1億ドル(約5兆円)だった(図4)。すると、TSMCにおけるアップルの売上高は5兆円×25%=1兆円以上ということになる。

アップルカーが既存の自動車メーカーを駆逐する当然の理由…最大の武器は台湾TSMCだの画像5

 一方、車載半導体はどうか。TSMCにおいて、すべての車載半導体の売上高比率は4%しかない。ここに世界中のクルマメーカーが群がっているわけである。世界に自動車メーカーが何社あるのかを筆者は詳しくは知らない。ネットで調べてみるとピンからキリまで200社以上ありそうだ。規模が大きいところは、販売台数ベスト20に名を連ねている。

 仮にこのベスト20社の自動車メーカーがTSMCに車載半導体の生産を委託しているとすると、1社あたり0.2%、5兆円×4%÷20社=100億円ということになる。TSMCの売上高において、アップルが25%以上で1兆円以上。(20社と仮定した場合の)既存の自動車メーカーが1社あたり0.2%で100億円程度。TSMCがどちらを優先するかは、もはや議論の余地は無い。

 これがアップルの「最強の武器」である。アップルは、TSMCの最大の顧客であり、TSMCに最先端プロセスを開発させることができ、そのキャパシティをほぼ独占しているのである。

CASE時代のクルマメーカーの覇者は誰か

クルマ産業は100年に一度といわれる「CASE (Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)」の大変革期を迎えている。この中で、特に、“C”には5G通信半導体が、“A”には自動運転用の人工知能(AI)半導体が必要となる。

 そして、コネクテッドされた自動運転車をつくるには、現在のところTSMCの7nm~5nm最先端プロセスが必要不可欠である。インテルやサムスン電子が追随しようと努力はしているが、今のところ、最先端プロセスはTSMCの独壇場となっている。

 このTSMCの最先端プロセスの5nmを、アップルはすでに約80%予約したと報道されている(Wccftech、2020年12月21日)。さらに、今年リスク生産が始まり、来年2022年に本格量産が始まる3nmについても、アップルが半分近く押さえたという話が聞こえてくる。

 ところがアップルカーについて、VWのヘルベルト・ディースCEOは「恐れてはいない」と言い、BMWのニコラス・ペーターCFOは「私はとても安らかに眠ることができる」と発言し、トヨタの豊田社長は「40年早い」と言ったわけだ。VWもBMWもトヨタも随分能天気なことを言っているが、コネクテッドされた自動運転車をつくるには今のところTSMCに先端半導体をつくってもらうしか手段がなく、そのTSMCを実質的に支配しているのがアップルであるということをご存じないのだろうか?

 これが、「アップルカーが既存の自動車産業を破壊するかもしれない」と考える根拠である。CASE時代のクルマ産業の覇者は、少なくとも、VWでもBMWでもトヨタ自動車でもないだろう。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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●湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。

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