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「本センターの予約システムで、不正な手段による虚偽予約を完全に防止する為には、全市長区町村が管理する接種券番号を含む個人情報を予め防衛省が把握し、予約番号と照合する必要があり、実施まで短期間等の観点から困難かつ、全国民の個人情報を防衛省が把握する事は適切でないと判断いたしました」
「他方、今回ご指摘の点は真摯に受け止め、市区町村コードが真正な情報である事が確認できるようにする等、対応可能な範囲で改修を検討してまいります」
厚労省関係者「予約すぐ取り消せば影響は少ないのでは?」
取材で実際に予約が取れてしまったということは、裏を返せば他の接種希望者の予約枠を奪ってしまったともとれなくはない。一方でその取材によって、国が運営するワクチン予約システムに致命的な“穴”があることがわかったのもまた事実だ。厚生労働省の関係者は次のように話す。
「確かに時間と機会の喪失につながる可能性はゼロとは言い切れませんが、予約をすぐ取り消していれば実害はほぼないのではないでしょうか。報道を見る限りでは、記者が何十人も大挙して検証に参加し、同時に予約を取ってしまったわけでもなさそうに見えるのですが……。
接種会場では、自治体から配られた接種券と運転免許証などの本人確認書類が必要になります。予約が取れたのにせよ、誰かに成りすましてワクチンを接種することはできません」
自衛隊関係者「そもそも防衛省にシステム構築は無理筋」
AERA dot.の記事によると、不備のあるシステムを実質的に運営しているのは、菅義偉首相と懇意のパソナグループ会長、竹中平蔵氏が顧問を務めるマーソ株式会社なのだという。自衛隊関係者は次のように話す。
「大規模接種センターの設営の件は首相官邸のトップダウンで決まったので現場は混乱しています。自衛隊が得意とするハード面での会場設営や運営ならまだしも、予約システムの構築は自衛隊の本来業務から少し逸脱しているようにも思えます。
そもそも防衛省と自衛隊には、大量の国民の申し込みを受け付けるシステム構築のノウハウはありません。当然、そうした業務が得意な委託先企業とのパイプもありません。自衛隊で数万人規模の大量の参加希望者を捌かなくてはいけないような事業は、陸自の富士の総合火力演習か、海自の観艦式くらいでしょう。
防衛省、自衛隊は自己完結した組織であろうとしていますが、“何でも屋”ではありません。今回のシステム構築は無理筋だったのではないでしょうか。とはいえ内閣総理大臣は自衛隊の最高指揮官であり、なにがあっても現場は抗命しません。任務を忠実に遂行するだけです」
公共の利益を害しているのはどちらか
ちなみに、日本新聞協会が2000年6月に定めた「新聞倫理綱領」には、以下のようなくだりがある。
「『自由と責任』 表現の自由は人間の基本的権利であり、新聞は報道・論評の完全な自由を有する。それだけに行使にあたっては重い責任を自覚し、公共の利益を害することのないよう、十分に配慮しなければならない」
朝日新聞出版は岸防衛相の抗議に関して、以下のように話す。
「岸防衛相のTwitterでの投稿と会見での発言は確認していますが、防衛省から正式な抗議はきていないので、コメントすることはございません」
一方、毎日新聞社長室広報担当は次のように主張する。
「『架空の数字を入力しても予約できる』との情報があり、防衛省への取材を進めるとともに真偽を確認するため実際に入力した上で記事化しました。確認作業は公益性が高いと判断しました。予約はすぐに取り消しています」
公共利益の害しているのは、架空の番号で予約を取った記者・メディアなのか。それともガバガバな予約システムを準備した防衛省なのだろうか。
(文=編集部)