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富士フイルム、退任の古森会長、燻る「1年で復帰」説…「ゼロックス」を失った代償

文=編集部

「アベガン」と揶揄された「アビガン」

 安倍晋三首相(当時)は、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ薬「アビガン」を新型コロナ治療薬として強く推し、税金投入に踏み切った。安倍首相は20年4月7日、緊急事態宣言後に表明した緊急経済対策に「アビガン200万人分備蓄に向けた増産支援」を盛り込んだ。20年度補正予算に139億円を計上した。

「アビガンならぬ、アベガンだ」。製薬業界からは、こんな冷ややかな声があがった。古森氏はJR東海の葛西敬之名誉会長と共に安倍首相を囲む財界人「四季の会」の中心メンバーである。新聞各紙の首相動静によると、19年末の12月30日、神奈川県茅ケ崎市のゴルフ場「スリーハンドレッドクラブ」で古森氏、飯島彰己三井物産会長、後藤高志西武ホールディングス社長らとゴルフをした(肩書きはいずれも当時)。年が明けた20年1月17日、東京・平河町の日本料理店「下関春帆楼東京店」で葛西氏、古森氏、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と会食している。

 新型コロナ治療薬として期待された政府推奨のアビガンだが、「お友だち重視の『モリカケ』と同じ構図」と揶揄される有様だった。安倍政権がコロナ対策の切り札としたアビガンの承認は、安倍首相退陣後の昨年12月の厚生労働省の専門部会で「有効性を明確に判断することは困難」だとして見送られた。

 富士フイルムHDは4月21日、アビガンの臨床試験(治験)を再開したと発表した。目標とする参加者数は316人。50歳以上で重症化リスクを抱え、症状が出てから72時間以内の人を対象とする。10月ごろには治験を終了する。新型コロナは病状が多様なため治療薬の開発では有効性を証明するデータを集めるのが難しいとされる。武田薬品工業や米CSLベーリングなどが進めていた血液製剤の開発プロジェクトは中止となった。「アビガン」は安倍前首相が表舞台から消えたことによってお役ご免になったという受け止め方もある。

米ゼロックス買収の失敗が最大の痛恨事

 古森氏は経営者として二度の大勝負に挑んだが、いずれも失敗した。16年に東芝メディカルシステムズの買収でキャノンと競り合った。新たな成長の柱として医療機器を位置付ける古森氏は買収に執念を燃やしたが、キヤノンが6655億円で手に入れた。それでも、医療機器をあきらめなかった。19年末、日立製作所から画像診断機器事業を1790億円で買収。コンピュータ断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの事業を獲得した。

 米ゼロックスの買収に失敗したことが古森氏の事業家人生の痛恨事となった。退任会見で「やりたかったことのひとつ」と述べた。世界で初めて複写機を開発に成功したゼロックスとは、1962年に共同出資会社を設立。半世紀あまり協業してきた。富士ゼロックスは日本と海外企業の合弁事業の成功例とされてきた。販売地域は富士ゼロックスが日本を含むアジア太平洋、米ゼロックスが欧米と分担してきた。2018年の複合機世界シェアは両社合計で17%と世界四強の一角を占めた。

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