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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

幼児期~小学生時の読み聞かせ・読書、その後の「学力」を大きく左右…実証的データで判明

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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「Getty Images」より

 読書はためになる。将来のために読書するとよい。だれもが子どもの頃に言われたセリフなのではないか。それが頭の片隅にあるため、わが子に本を読むようにと言う親が多い。読書が学力向上につながるなら、何とか読書習慣をつけさせたいと思うのが親心だ。

 でも、本を読むように言っても、子どもは素直に読むわけではない。読書が学力向上につながるというのは本当なのだろうか。それがはっきりしないことには、親としても子どもの読書習慣づくりになかなか本気に取り組めない。

読書と知的発達の関係

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『読書をする子は○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版)

 読書の効用については、さまざまなことが言われているが、本当のところどうなのか。そんな疑問をもつ人もいるだろう。そこで、実証的データを見てみよう。

 ただ直観的に言われているだけで、科学的根拠などないと思っている人がいるかもしれないが、読書の効果に関する各種調査データをみると、読書には本当に知的発達を促す効果があるようだ。

 たとえば、国立青少年教育振興機構の「子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究」によれば、子どもの頃によく読書していた中高生ほど、意欲・関心が高く、論理的思考能力が高いといった傾向がデータによって示されている。

 意欲・関心については、子どもの頃の読書活動が多いほど、「何でも最後までやり遂げたい」「わからないことはそのままにしないで調べたい」「経験したことのないことには、何でもチャレンジしてみたい」というように意欲や関心を強くもっていることが示された。

 論理的思考能力については、子どもの頃の読書活動が多いほど、「複雑な問題について順序立てて考えるのが得意である」「考えをまとめることが得意である」「物事を正確に考えることに自信がある」というように論理的思考能力に自信をもっていることが示された。

 さらには、そのような傾向は、就学前から小学校低学年の頃に絵本をよく読んだ者ほど顕著であり、また自分では本を読めないそうした年頃に家族から本や絵本の読み聞かせをしてもらったり昔話を聞かせてもらったりしたことの多い者ほど顕著であることが示された。

 その他の調査データでも似たような傾向が示されており、子ども時代に読書をすることが知的発達を促すというのは事実と言えそうだ。また、自分ではまだ本を読むことができない幼児期や小学校低学年の頃に親が本や絵本の読み聞かせをしたり、昔話をしたりといったことも、読書と同じく知的発達を促す効果をもつようだ。

読書が語彙力につながる

 では、子ども時代の読書経験は、どのような形で知的発達を促進するのだろうか。

 第1に、読書によって語彙力が高まるということがある。読書量が多いほど語彙力が高いということは、心理学や教育学の分野において、多くの研究によって示されている。小学校高学年の児童を対象にした研究でも、読書量の多い子のほうが語彙力が高いことが示されている。就学前の幼児を対象とした研究でも、読書量の多い子ほど語彙力が高いことが示されている。

 本を読むということは、多くの言葉に触れることでもある。ゆえに、読書によって多くの言葉に触れている子と、読書をあまりせず言葉に触れる機会の少ない子では、獲得している言葉の数が違って当然だろう。言葉をたくさん知っていれば本を何の苦もなく読むことができるが、言葉をあまり知らなければ本を読むのに苦労する。そこに読書と語彙力の相互作用が生じる。

 つまり、よく本を読む子は、語彙力が高いため本を読むことが苦にならず、読書を楽しむことができる。それによって、ますます語彙力が高まり、読書好きになっていく。そのように好循環が働く。

 一方、あまり読書をしない子は、語彙力が低いため本を読むことが苦になり、あまり読書を楽しめない。その結果、なかなか語彙力が高まらず、読書嫌いになっていく。まさに悪循環だ。

 こうして、読書を楽しみ語彙力を高めるとともにさまざまな知識・教養を身につけていく子と、あまり読書をせず語彙力が乏しく知識・教養も乏しい子に分かれていく。

 2歳前後の幼児では、自分で読書することはできない。その場合は、本をよく読むかどうかというより、読み聞かせをよくしてもらっているかどうかが問題となる。読み聞かせの効果に関しても、多くの研究が行われている。それらの研究によれば、読み聞かせを始めた時期が早いほど、また読み聞かせの頻度が高いほど、語彙力が高いといった傾向がみられる。

  読書量と語彙力の関係については多くの調査研究が行われているが、幼児期から児童期の子どもを対象とした研究をみても、中学生や高校生を対象とした研究をみても、大学生や大学院生を対象とした研究をみても、どの年代でも一貫して読書量の多い者ほど語彙力が高いといった傾向が示されている。

 このようにみてくると、独力による読書であっても、読み聞かせによる間接的な読書であっても、読書経験が語彙力を高めるのは確かなようだ。

読書が読解力を高める

 第2に、読書によって読解力が高まるということがある。学力を高めるには、教科書や参考書の文章を読解できることが最低限必要である。だが、数年前に衝撃的なデータが公表された。中学生の5割が教科書の文章を理解できないというものだ。そこで今どきの子どもたちの読解力の低さが問題視されるようになったのである。

 文章を理解するには。語彙力とともに読解力が求められる。言葉をたくさん知っているほうが文章を理解しやすいが、文脈を読み取る力もないと文章の意味を十分理解することができない。

 その読解力にも読書が効果をもつことが、多くの調査研究によって示されている。たとえば、心理学者の猪原敬介たちが小学校1年生から6年生までの児童を対象に実施した調査でも、読書量が多いほど語彙力も読解力も高いことがデータで示されている。言語学者の澤崎宏一が実施した大学生における読書習慣と読解力についての調査でも、子どもの頃から現在までの総読書量が文章理解力と関係していることがデータで示されている。

 注目すべきは、高校時代や大学時代の読書量より、小中学校時代の読書量のほうが、大学生の文章読解力に強く関係していることだ。自分では本を読めない幼児期における親による読み聞かせが、子どもの読解力を高めることもわかっている。幼児期から小学校中学年まで追跡調査した研究によれば、幼児期に親からよく読み聞かせをしてもらった子どもは、あまり読み聞かせをしてもらわなかった子どもよりも、小学校4年生になったときに読解力が高いことが示されている。

 このように読書経験が語彙力や読解力の向上につながることが、多くの研究によって証明されている。そうしたメカニズムが、読書が知的発達を促進するということの背景に働いているわけだ。

 こうしてみると、読書することが学力向上につながるというのは本当のようだ。教科書の文章を読解できないのでは、学力向上は望むべくもない。子どもの将来のためを考えたら、幼いうちから絵本を与えたり、本や絵本の読み聞かせをするなど、読書に馴染ませるような教育的働きかけが欠かせない。そのために親としてもちょっと頑張ってみる必要があるだろう。

(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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