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田村正和は映画を捨てた?アイドルと共演し、やくざ映画で海パン一丁だった意外な一面とは

文=峯岸あゆみ
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田村正和といえば、「やはり『古畑任三郎』だ!」と語る人は多いだろう。実際、幅広い層に受け入れられ、彼の“代表作”のひとつともなった。画像は2004年にフジテレビジョンより発売された『古畑任三郎 3rd season 1』 ジャケット。

 さる5月18日に、今年の4月3日に他界していたことが明らかになった田村正和。彼は生前「テレビ俳優」を自称し、“映画よりテレビドラマのほうが自分に向いている”といった発言もしていた。つまり、映画とは意図的に距離を置いていたのである。

 1980年以降の約40年間で出演した劇映画は、『子連れ狼 その小さき手に』(1993年/監督:井上昭)、『ラストラブ』(2007年/監督:藤田明二)のわずか2本のみ。そのネームバリューや人気を考えると、あまりに少ない。

 しかし、戦前より映画界で活躍した時代劇スター・阪東妻三郎の息子である田村にとって、俳優としてのキャリアのスタート地点はやはり映画であった。1960年に映画『旗本愚連隊』(監督:福田晴一)の端役でデビューし、翌年、松竹と専属契約。1966年にはフリーとなったが、その後も70年代の終わりまでは年に数本ペースで映画に出演していたのだ。

 テレビ界での田村は、1972年の『眠狂四郎』(フジテレビ系)以降、時代劇の主演作が増え、1983年の『夏に恋する女たち』(TBS系)以降は現代劇の連続ドラマに次々と主演していく。

 ところが映画界では、主演作がゼロではないものの、2番手、3番手の場合が多く、引く手あまたの看板スターというわけでもなかった。そのため、おそらく本人の志向と異なる役、その後のパブリックイメージと乖離した役を演じることも多かった。

 没後、俳優・田村正和の足跡が振り返られる機会は多いが、本稿では、触れられる機会の少ない田村の映画出演作、なかでも意外性の高いものを厳選して紹介したい。

アイドル映画のサブキャラが定位置?大きかった“スター”橋幸夫との格差

『男なら振りむくな』(1967年/監督:野村芳太郎)

 原作は石原慎太郎の小説で、レコード大賞受賞歴がある人気歌手・橋幸夫(当時24歳)がオートバイレーサーの青年を演じた。興行的に橋の人気に頼った、いわばアイドル映画だといえる。ヒロインは加賀まりこで、『男はつらいよ』以前の渥美清も出ている。24歳の田村が演じたのは、橋の相棒であるレーサーの役。若手イケメン枠ともいえるポジションだが、ポスターでの扱いは、橋が9に対し、田村は1だった。もちろん加賀が好意を持つのは橋のほうである。

『初恋宣言』(1968年/監督:梅津明治郎)

 主演は「西野バレエ団」のメンバーで、女性アイドルグループの元祖ともいわれる5人組「レ・ガールズ」として活動していた由美かおる(当時17歳)だ。スターを夢見る若い女性を描いた作品で、レ・ガールズの他メンバーも3名(奈美悦子、原田糸子、江美早苗)出演する正統派アイドル映画だ。

 田村の役は、主人公の相手役であるテレビ番組のディレクター。今なら坂口健太郎あたりがキャスティングされるところだろうか? いずれにしても、あくまで由美の人気ありきの作品であり、やはり田村はサブのイケメン枠ポジションだった。

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ニューヨークを舞台にしたラブストーリーで、田村はジャズシーンをにぎわせたサックスプレイヤーを演じた。この作品を最後に、田村は劇映画に出演していない。画像は、2007年に発売された『ラストラブ』DVD版のジャケット(ジェネオン エンタテインメント)。
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菅原文太・池部良・田村正和が三兄弟に扮して、巨大組織に飲み込まれていくアクション映画。小柄で細身の田村が演じるのは、武闘派ではなくドライな若者だ。画像は、2017年に東映より発売された『現代やくざ 与太者仁義』DVD版のジャケット。

『仁義なき戦い』以前の菅原文太と2度共演、陰性やくざ映画で勝新太郎に脅される

『侠勇の花道 ドス』(1966年/監督:松野宏軌)

 もともと文芸作品や人情喜劇を得意としていた松竹が、やくざ映画をドル箱とした東映を模倣して作った作品のひとつだ。

 田村が演じたのは、大親分の跡目を継ぐ実子の役だ。まだ人間として成熟しておらず、敵対組織の罠に落ち、悲劇的な結末を迎える設定になっている。田村を陥れる悪辣なやくざを演じたのは、東映移籍前で松竹専属だった菅原文太である。

 なお、文学青年が不良のまねごとをしたような松竹のやくざ映画は観客の支持を集めることができず、短期間で打ち切りになっている。

『現代やくざ 与太者仁義』(1969年/監督:降旗康男)

 松竹を離れフリーとなった田村はめぐりめぐって、東映やくざ映画にも出演した。これは、アウトローな三兄弟(池部良、菅原文太、田村正和)を描いた作品だ。

 上で紹介した『侠勇の花道・ドス』では悪役だった菅原は、東映に移りやくざ映画の主演格にランクアップしている。小柄で細身の田村が演じるのは、イケイケの武闘派でも、仁義を重んじる昔気質の侠客でもなく、現代の反社会業界でドライに生きる若者だ。サングラスをかけたワルの田村は珍しい。

 なお、菅原文太主演で5作品制作された「現代やくざ」シリーズは、5作目『現代やくざ 人斬り与太』で深作欣二を監督に迎えた。この作品こそ、今に語り継がれる「仁義なき戦い」シリーズの原点だといわれる。もし田村が「現代やくざ」シリーズに連続出演していれば、その流れで、『仁義なき戦い』に出演していた可能性もゼロではない。

『やくざ絶唱』(1970年/監督:増村保造)

 2017年に公開された『兄に愛されすぎて困ってます』(監督:河合勇人)という、土屋太鳳と片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)が主演のラブコメ映画があった。『やくざ絶唱』は、それとはまったく関係のない、“やくざの兄に愛されすぎて困っている女性”を描いた作品である。タイトルに「やくざ」が付くが、やくざの抗争劇を主軸とした作品ではない。そして全編、暗くて重く、ジメジメしている。

 兄を勝新太郎が、高校生の妹を大谷直子(土屋太鳳に似ているといわれる)が演じた。勝新は大谷に対し兄妹愛の枠を超えた一種独特の愛情を抱いている。寝ている大谷に覆いかぶさるシーンもある。そして、大谷に近づく男を「ぶっ殺してやる」と恫喝する。

 田村は、そんな怖い兄のいる大谷と交際する若い男の役だ。砂浜で、海パン一丁の田村とビキニ姿の大谷が砂だらけになって激しく絡み合う場面もある。しかし、勝新はもちろん2人の関係を許さない。勝新vs田村の対決は、およそ田村に勝ち目がなさそうだが、果てして……。

 なお、勝新はのちに『古畑任三郎』(1994〜2006年、フジテレビ系)にゲスト出演する話が具体的に進んでいたとか。もし実現していたら、そこでは田村の完勝だっただろう。

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若き日の妖艶な美輪明宏が、クラブ「黒薔薇の館」で男たちを虜にしていき、美青年の田村もまた……。画像は松竹より発売の『黒薔薇の館』VHS版ジャケット。

美輪明宏や右翼の大物と怪しい関係に?『女囚さそり』でおぞましい拷問シーンに挑む

『黒薔薇の館』(1969年/監督:深作欣二)

 深作欣二がメガホンを握り、美輪明宏(当時は丸山明宏)が主演した映画『黒蜥蜴』(1968年)は、三島由紀夫が戯曲化した江戸川乱歩の同名小説が原作だ。三島自身も、陳列されている人間の剥製(役名は「日本青年の生人形」)として出演している。まるで、美輪のプロモーションビデオのようにも感じられる一作だ。

 そしてこの『黒薔薇の館』は、乱歩も三島も無関係ながら、柳の下の2匹目のドジョウを狙った同系統の作品である。

 美輪は、資産家が経営するクラブ「黒薔薇の館」で、男たちを虜にしていく妖艶な美女を演じた。田村の役はその美女とやがて深い関係になる資産家の息子だった。陰鬱で耽美的なその世界に美青年の田村はハマった。美輪&田村というマッチングは絶妙だといえる。

『女囚さそり 701号怨み節』(1973年/監督:長谷部安春)

 大ヒットした梶芽衣子主演による「女囚さそり」シリーズの第4弾。監督が伊藤俊也から長谷部安春に替わり、作風に変化はみられるが、全編を支配するどんよりとした空気や残酷描写は、それ以前と変わらず。

 田村が演じるのは、過激派として扱われた元左翼活動家の役だ。過去に警察に激しく拷問されたことで下半身に障がいが残り、生殖機能を失っているという設定も。それがセリフだけで説明されるのではなく、田村が吊るされ、蹴られ、熱湯を股間にかけられ悶絶する回想シーンが挟まれることによってグロテスクに強調される。

 さそり(梶)と惹かれ合う描写もあるが、「女囚さそり」シリーズに平穏無事で終わる登場人物はおらず、田村も例外ではなかった。

『日本の黒幕(フィクサー)』(1979年/監督:降旗康男)

 これは、「ロッキード事件」の際に注目された児玉誉士夫と田中角栄の関係をモチーフに、日本の右翼団体と政財界の癒着を描いた意欲作。当初は大島渚が監督を務める予定だった。フィクサーとして暗躍する右翼の大物(佐分利信)が主人公で、田村はその側近かつ門下生のリーダー格を演じた。

 フィクサーは田村を寵愛し、田村はフィクサーに心酔している。2人は武将と小姓のようにもみえる。それでいて、田村はフィクサーの娘(松尾嘉代)とも男女の関係にある。また途中から、美しい少年をフィクサーが可愛がるようになると、田村は湧き上がる嫉妬のような感情を押し殺そうとする描写も。さらにフィクサーの邸宅内では、男と女、男と男、肉親同士の愛憎が複雑怪奇に絡み合う……。

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ロッキード事件を題材にした意欲作。田村はフィクサーとして暗躍する右翼の大物(佐分利信)に心酔する側近を演じた。写真は、2010年に東映より発売された『日本の黒幕(フィクサー)』DVD版ジャケット。

 日本映画としては未踏の領域に踏み込んだこの作品を最後に、田村は映画界を離れ、テレビに専念するようになった。そこには、どのような思いがあったのだろうか?

 ここに挙げた映画のなかで田村が演じたのは、アイドル映画2作を除けば、いずれも陰湿な雰囲気のキャラクターで、また、多くの作品で無残な最期を遂げている。

 それは、『パパはニュースキャスター』(1987年、TBS系)や『古畑任三郎』での軽妙な紳士のイメージとも、『ニューヨーク恋物語』(1988年、フジテレビ系)、『過ぎし日のセレナーデ』(1989〜1990年、フジテレビ系)でのニヒルな二枚目のイメージとも大きくかけ離れている。

 だが、それらもまた、田村正和という俳優を語る上で重要な要素なのである。

峯岸あゆみ/ライター

峯岸あゆみ/ライター

CSと配信とYouTubeで過去のテレビドラマや映画やアイドルを観まくるライター。ベストドラマは『白線流し』(フジテレビ系)、ベスト映画は『ロックよ、静かに流れよ』(1988年、監督:長崎俊一)、ベストアイドルは2001年の松浦亜弥。

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