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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

会社で社員に子宮頸がん検診、有所見率が13%にも…コロナワクチン考察、医師が解説

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
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「Getty Images」より

 新型コロナウイルス感染症の蔓延防止の切り札として、ようやく世界では製薬会社が競って開発したワクチンの接種が始まり、進んでいる国では、もうマスクをしないで外出をしているところも出てきました。日本もこれから接種が本格化することで、コロナの流行が収まることが期待されています。

 今日は、ハイスペック女子の健康と、大いに関係するワクチンの話をしてみたいと思います。

 私の産業医先であるA社では、健康経営に前向き取り組んでいる理解ある経営者の発案で、社員の健康増進のためには会社は何をしたら良いのかをテーマに、真剣な議論を行っています。ここで過日、私は女性社員への子宮頸がん検診を、会社の費用負担で実施してはどうか、と提案させていただきましたところ、これを採用していただき、このほどその結果が出てきました。

 A社が費用負担し、社員が積極的に受けた子宮頸がん検診の結果、所見があり定期的に婦人科でフォローすべき対象となった女子社員は13%にも上り、その有所見率の高さに驚きました。

 子宮頸がんは子宮の入口(頸部)にできるがんで、日本では毎年1万人が子宮頸がんにかかり、約3000人が亡くなっております。発症する年代が若い世代に多く(ピークは30代)、20代、30代の女性で子宮頸がんのために妊娠できなくなる女性が毎年1200人いるという、決して軽視できない病気です。

 さらに、このがんでの死者は、20~65歳の働く女性の世代に集中しており(2019年の死者合計2921人のうち46%の1335人)、働きながら治療を進めていらっしゃる女性も多くいらっしゃいます。

 子宮頸がんのほとんどは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染が原因といわれており、特に2つのタイプ(HPV16型と18型)によるものが子宮頸がん全体の50~70%を占めております。そして、そのHPV感染を予防するワクチンが子宮頸がんワクチンです。

 厚生労働省は、子宮頸がんワクチンでのHPV感染予防と、20歳以降の定期的な子宮がん検診受診とで子宮頸がんはかなり予防できるとしており、HPVワクチンを承認している(世界約130カ国で承認)、オーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランスなどではワクチンの効果は大きく、2016年までの「10年間で、世界中で7200万人が接種し、HPV感染は90%も減少」という報告もあります。

 これを受けて日本でもワクチンは2013年に定期接種となりましたが、その後、副反応がマスコミで大々的に報道され、現在では「積極的勧奨の中止」となっており、その接種率は当初70%以上でしたが、最近は1%未満となっています。現状を受けて、WHO(世界保健機関)は日本に対して子宮頸がんワクチンの接種率を上げるように勧告まで出しています。

 ワクチンは性交渉を経験する前の10歳代前半に接種をすることが推奨されており、定期接種は小学6年生~高校1年生の間に3回接種するスケジュールです。そして、この子宮頸がんワクチンを受けなかった世代が働く世代になりつつあります。

現状維持バイアス

 今回の新型コロナ感染症のワクチン、これを打てば理論上は感染症への罹患を95%回避できるとのこと。そのリスクである副反応としていわれているのは、接触部位の痛み(67~74%)、だるさや頭痛、筋肉痛(40~50%)などです。接種した翌日には体調不良で仕事を休まざるを得ないという人もいると聞きます。インフルエンザワクチン予防接種よりかなり副反応の頻度は確かに高いようです。

 ワクチンというものは、その効果である傷病への罹患の回避・軽傷化というメリットと、副反応というデメリットを、どうしても天秤にかけなければなりません。今回のワクチン、民間の調査会社の調べでは、29%の人たちが「ワクチンは副反応が怖いから打たない」と回答しているといいます。

 人間の行動には、現状維持バイアスというものがあり、人は変化そのものを嫌います。その背景には「損失回避性」というものが働いているからで、人は利益から得る満足度より同額の損失から得る苦痛のほうが大きいと判断するのです。

「現状を変える」(=ワクチンを打つ)ことによって「何かを失うかもしれない」(=副反応が出る)という不安が、「何かを得られるかもしれない」(=コロナに罹患しない)という期待よりも上回るのが、現状維持バイアスがかかる理由なのでしょうか。

「確かにワクチン接種で副反応が出る確率はかなり低い。一方で得られる利益であるコロナ罹患の回避のメリットは大きい」と頭ではわかっていても、「感染予防できるといっても、リスクが少しでもあるなら不安だし、やめておきたい」といった要因で、客観的に合理的な選択肢の導入に踏み出せなくなるのです。

 さて、(意図的にかどうかはわかりませんが)子宮頸がんワクチンの接種を回避した若い働く世代の女子たちは、このコロナ禍の救世主であるワクチン接種に際しては、この現状維持バイアスに陥ることなく、ワクチン接種を選択するのでしょうか。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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