津賀社長は「自動車部品で世界トップ10に入る」と言い切った。テスラ向けの車載電池への投資は、その一環である。
21年3月期連結決算(国際会計基準)は津賀改革の通信簿となった。オートモーティブ(自動車関連)の売上高は前期比9%減の1兆3394億円。営業利益は20年3月期の466億円の赤字から109億円の黒字に転換した。収益の柱としてきた車載電池事業の売上高は4238億円。テスラ向け電池事業は、この期に初めて黒字になった。
テスラは車載電池を自前で生産する
テスラの急成長とともにテスラとパナソニックの関係も変化した。テスラの中国工場は19年に稼働したが、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国のLG化学が電池を供給している。パナソニックは参画を見送り、独占供給体制は崩れた。
テスラは22年にEV140万台分に相当する車載電池を自社生産する計画を示している。これは従来のパナソニックからの購入量の約3倍の規模だ。テスラは電池の内製化を進め、EVの生産コストの約3割を占める電池の大幅なコスト・ダウンを狙っている。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「サプライヤーを引き続き利用する」と強調する。テスラは低コストの新型電池の開発を進めており、パナソニックは21年中にもテスラが目指す新型電池の試作ラインを導入する計画だった。今回、パナソニックは保有するテスラ株全株を売却した。売却で得た資金は米ソフトウエア大手、ブルーヨンダーの買収原資に充てる。4月に7700億円の巨費を投入、ブルーヨンダーを完全子会社とすることを決めた。
ブルーヨンダーが得意とする製造現場や物流網の効率化は、今後成長が見込める分野だ。だが、買収額が巨額で、財務体質の悪化が懸念されていた。テスラ株の売却で得た資金でブルーヨンダーの買収資金を賄う決断をしたことの意味は大きい。
パナソニックはテスラへの依存度を下げ、将来に向けた事業投資に踏み切った。次はテスラがパナソニックを切る番だ。テスラは中国のCATL、韓国のLG化学から電池の供給を受けている。パナソニックだけに頼らず、より安いメーカーから買うことになるとみられている。
パナソニックは、開発中のEV向け新型電池について量産化に成功すればテスラ以外の自動車メーカーにも供給する意向を示している。テスラが独自生産する新型電池とパナソニックの新型電池が、価格面でも性能面でも競合し、ライバル関係になる。
(文=編集部)