「トヨタはHVを永続させる」…世界の潮流と逆行、EVシフトを“遅らせざるを得ない”事情

トヨタは水素エンジン車を前面に押し出してきたが、水素エンジン車を本気でFCVの代わりにしようというわけではない。少しでも世界のEVシフトを遅らせるためだろう。トヨタはメインとするHVを永続させる道筋を探している。少なくとも章男社長の任期中はHVでしのぎたいのだ」(在米の自動車評論家)

「トヨタはEV戦線では出遅れている」というのが一般的な評価だ。EVの開発と同時にリチウムイオン電池ではない動力源として、全固体電池を模索中だ。19年6月に行われたメディア向け説明会で、「2020年のオリンピックのタイミングで、なんらかの形で発表できれば」としていたが、6月末現在、全固体電池についての具体的な発表はない。

 トヨタはこうしたさまざまな悩みを抱えているが、それとは裏腹に株価は続伸した。6月15日、1万円の大台に乗せ、株主総会があった6月16日にも買い注文が続いて、一時、前日比225円(2.3%)高の1万330円の上場来高値を更新した。豊田社長は「大きな危機に一つひとつ対処してきた結果だ」と前を向いた。株価は1万330円を記録した後、1万円を割り込んだ。

 21年3月決算と同時に9月末割当で1対5の株式分割と4100万株(発行済み株式の1.46%)、金額にして2500億円の自社株買いを発表したことが、株価に大きなインパクトとなった。トヨタの株式分割は1991年の1対1.1分割以来のこと。株価が5分の1になれば、個人投資家がトヨタ株を買いやすくなる。

 トヨタが株価を強く意識するのには理由がある。トヨタの研究開発費は22年3月期で過去最高の1兆1600億円を予定している。そこで、「今回は英語で決算発表やることにした」(外資系証券会社のアナリスト)。「決算会見にジェームス・カフナー取締役を同席させ、英語でトヨタのカーボンニュートラル戦略を語らせた。質疑応答も口火を切ったのはブルームバーグの記者で、英語でやりとりさせた」(同)

「株価上昇はトヨタ側の完璧な仕掛けの成果」(大手証券会社)との見方が株式市場で広がっている。自社株買い、株式5分割といった株価刺激策を公表したのは「いわばダメ押し」。だが、この作戦の効果は、もう少し長い目で見ないとわからない。株価1万円台を維持するには、全方位戦略のもう一歩の先の明確なビジョンが必要になる。

(文=編集部)

【続報】

 欧州連合(EU)の欧州委員会は 7月14日、ハイブリッド車(HV)を含むガソリン車の新車販売について、2035年に事実上、禁止する方針を打ち出した。環境規制の緩い国からの輸入品に関税をかける国境炭素調整措置(国境炭素税)を23年にも暫定導入する計画だ。

 加盟国と議会の承認が必要になる。国境炭素税の導入に関しては算定が技術的に難しいことから懐疑的な声が多いが、EUは環境と人権を重視し、流れに掉さす動きを拒否するか、ペナルティとして課税するかを鮮明にした。日本の自動車メーカーは得意とするHVがゼロミッション車に含まれなことに懸念を示している。

 トヨタ自動車は欧州向けの新車を30年にすべて電動車にする方針だが、二酸化炭素を出さない排出ゼロの電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)は合計で40%。残り60%はHVなどとなっている。40年にすべての新車をEVかFCVにする計画のホンダも、35年時点では「先進国向け80%」にとどまる。

 ホンダの三部敏宏社長は7月16日、「ルールが変わるなら対応するしかない。EVへの全面移行が早まる可能性がある」と述べた。国内の大手自動車メーカーのトップでEUの新しい規制への対応について発言したのは三部氏が最初である。トヨタなどが不安視しているのは、脱炭素が進んでいない国からEUの輸出品に課税する国境炭素税についてだ。

 日本は総発電量に占める火力発電の割合が8割近くになっている。「脱炭素が進んでいない国」と認定される恐れがある。EUへの自動車や主要部品の輸出に、新たな関税がかけられることになると、価格競争力を失う。生産拠点を日本国内からEUの域内に移すことを考えなければいけなくなる、といった極論まである。そうなれば部品メーカーを含め日本国内の雇用に影響が出かねない。

 EUの決定がそのまま実行されることになれば、トヨタは全方位戦略を根本的に見直さなければならないかもしれない。

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