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成馬零一「ドラマ探訪記」

『ハコヅメ』は“新しい刑事ドラマ”になるか?光る永野芽郁のコメディエンヌとしてのうまさ

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家

『ハコヅメ』が描く“警察官の仕事”

 警察官と一般市民の関係を見せることにドラマは焦点を当てており、事件を題材にした刑事ドラマではなく、警察官の日常を丁寧に追いかけるドラマだというのが、ここまでの印象だ。全体的にユルいトーンだったため、バラエティ番組を見るような気持ちで気軽に眺めていたのだが、次第にテーマが見えてきた。

 ひとつは、川合の成長を見守る大人たちのあり方だ。失敗するたびに落ち込む川合を、大人たちが優しく受け止める。特に藤が川合と接するときの距離感は絶妙で、むやみに叱ったりはしないが、かといって甘やかすわけでもない。鋭い観察眼で状況を分析するクールさと、クレームを浴びせられたら警察にあるまじき暴言をこっそり言うというバランス感覚が見事で、「こんな大人でありたいなぁ」と思わされる。

 同時に本作は、避けては通れない「警察官の仕事」とも真摯に向き合っている。第2話の後半、コミカルなムードと打って変わり、シリアスで重苦しい展開となる。

 同棲する恋人が連続窃盗犯だった女性の家を調べるために、川合と藤は刑事たちのガサ入れに同行する。しかし、藤がタンスを開けて女性の下着を一枚一枚広げる様子を見た川合は、「無理です」「できません」と仕事を拒否してしまう。

 謝る川合に対し、「別に謝ることないさ。それが普通だから」「他人の家にズカズカ入って手当たり次第、調べるなんて、普通ならできない」「川合の反応が正常」「慣れちゃった私たちの方がおかしいよ」と言って、藤は川合を仕事から外すが、悩んだ末に川合は仕事に参加。部屋にひとり残される女性に悲しい思いをさせたくないから「犯罪に関するものは一つだって置いて帰りたくないんです」と言って、最後まで丁寧に家宅捜索に取り組む。

 この2話の後半で、『ハコヅメ』の印象は大きく変わったように感じる。

 市民の安全を守る警察官は、プライベートを暴く仕事でもあるため、恨まれることが多い。そんなつらい場面にぶつかった川合が、何を考え、受け止めるのか? そこを描ききることができれば、本作は新しい刑事ドラマとなるのではないかと思う。

(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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『テレビドラマクロニクル 1990→2020』 昭和の終わりとともに世紀末を駆け抜けた1990年代の旗手・野島伸司。マンガ・アニメとの共鳴で2000年代の映像表現を革命した堤幸彦。若者カルチャーの異端児から2010年代の国民作家へと進化を遂げた宮藤官九郎。平成を代表する3人の作品史をはじめ、坂元裕二、野木亜紀子などの作家たちが、令和の現在に創作を通じて切り拓いているものとは――? バブルの夢に浮かれた1990年からコロナ禍に揺れる2020年まで、480ページの大ボリュームで贈る、現代テレビドラマ批評の決定版! amazon_associate_logo.jpg
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