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その成果は、コロナ禍の発生によって確認されたといえる。2019年11月に新型コロナウイルスの感染が発生し、2020年春先には感染が世界に広がった。それによって、世界経済の需要と供給は寸断され、2020年度上期の日本製鉄の業績は落ち込んだ。しかし、下期以降の収益は急回復している。業績を支えた要因の一つは、中国、米国、そして欧州などでの自動車のペントアップディマンドの発生だ。また、中国でインフラ投資が前倒しで進められたことも高付加価値型の鉄鋼製品への需要を支えた。逆に言えば、常に成長分野に生産要素を再配分することがリスクへの対応に欠かせない。日本製鉄の事業体制はより筋肉質なものになっていると評価できるだろう。
中国経済の回復ペース鈍化と感染再拡大の影響
ただし、日本製鉄を取り巻く不確定要素は増大している。そのため、業績の回復ペースが鈍化するリスクは否定できない。
まず、短期的な不確定要素を考えよう。その一つが、中国経済の回復ペース鈍化だ。5月と6月、中国の新車販売台数の前年同月比変化率はマイナスに転じた。その要因として、世界的な半導体不足の影響は大きい。それに加えて、コロナ禍によって中国経済全体で消費者心理は弱含み、節約志向が強まっている。景気回復ペースの鈍化は消費者心理を追加的に圧迫し、自動車の販売を下押しする恐れがある。それは、自動車に用いられる鋼板需要を低下させる一因だ。
それに加えて、新型コロナウイルスの感染再拡大も無視できない。感染再拡大は供給を制約し、企業のコストを増加させる要因だ。それは、日本内外での生産者(企業)物価指数の上昇に表れている。その背景には、感染の再拡大による生産や物流の停滞がある。
日本製鉄のサプライチェーンを念頭に置いて考えると、鉄鉱石の世界的な供給地であるオーストラリアでは感染再拡大の影響によって人手不足が深刻と聞く。それは鉄鉱石価格の上昇要因だ。石炭の価格も上昇している。資源価格の上昇ペースと期間にもよるが、鉄鉱石や石炭価格の上昇は日本製鉄のコスト増加要因だ。
需要の伸びが期待できる場合、企業はコストの増加を販売価格に転嫁しやすい。米国で消費者物価指数が上昇しているのはそのためだ。しかし、日本では需要が停滞しており、消費者物価の上昇圧力は鈍い。中国でも消費者物価の伸びは穏やかだ。国内自動車メーカーがボリュームゾーンの車種を中心に値上げを行うことは容易ではないだろう。