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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

米WDによるキオクシア買収は、メリットは非常に大きいが、実現しないと考えられる根拠

文=湯之上隆/微細加工研究所所長

中国紫光集団の存在

 そして、ダークホースとして不気味な存在なのが、中国の紫光集団である。というのは、紫光集団傘下の長江ストレージ(YMTC)がNANDを製造しており、同じく傘下の西安紫光が元エルピーダの坂本幸雄氏をスカウトし、先端DRAMの開発に取り組んでいる。

 加えて、2013年にはファブレスの展訊通信(Spreadtrum)を買収し、そこがSSDコントローラを設計できると考えられる。つまり、紫光集団は、NANDとDRAMの自給、SSDコントローラの設計を自前で行うことができる。

 問題は、SSDコントローラの製造をSMICに委託するしかなく、そのSMICは米国のエンティティー・リスト(EL)に追加されており、米国製の設計ツールや製造装置を使った半導体の製造が困難になってしまったことにある。したがって、SMICは40~28nmあたりが限界で、14nm以降の先端プロセスによるロジック半導体の製造が困難となっている。

 なお、多くのメモリメーカーが生産委託しているTSMCは、12nmの先端プロセスでSSDコントローラを製造している。さらに性能を高めるために、次世代は10nmをスキップして、7nmになると思われる。場合によっては、最先端露光装置EUVを使う7nm+や5nmでの製造も、そう遠くない将来に訪れることになるだろう。

SSDの容量シェア

 それでは、SSDのシェア争いは、どうなっているだろうか。図5に、2021年第1四半期(Q1)のSSDのエクサ・バイト(exabyte、EB)シェアを示す。なお、EBとは、10の18乗の単位で、記憶装置の容量を意味する。

米WDによるキオクシア買収は、メリットは非常に大きいが、実現しないと考えられる根拠の画像6

 SKハイニックスがインテルを買収すれば、合計シェアはWDとキオクシア(+Lite-On)を超え、世界シェア1位のサムスン電子(34.3%)に次ぐ、第2位(20.6%)になる。ここで、キオクシアは2020年7月1日付で、台湾のSSDメーカーのLite-Onを1億6500万ドルで買収する予定となっている(予定通りなら買収は完了していることになる)。そのため、図5では、最初からキオクシア+Lite-Onの合計でシェアを記載している。

 そのキオクシア(+Lite-On)をWDが買収したら、SSDの合計シェアは31.5%となり、SKハイニックス・インテル連合を抜いて、シェアトップのサムスン電子に次ぐ第2位に躍り出ることになる。

SSDの出荷個数シェア

 SSDのEBシェアとは別に、SSDの出荷個数のシェアデータもある。こちらのほうが、ビジネスの状況が反映されたシェアかもしれない。その2021年Q1の出荷個数シェアを図6に示す。

米WDによるキオクシア買収は、メリットは非常に大きいが、実現しないと考えられる根拠の画像7

 SKハイニックス・インテル連合の合計シェアは16.8%で、この時点では1位サムスン電子(25.3%)、2位WD(18.2%)に次ぐ第3位になる。ここで、WDがキオクシア(+Lite-On)を買収すれば、その合計シェアは31.5%となり、サムスン電子を大きく超えて、世界1位に躍り出ることになる。

 ここまでを総括すると、WDがキオクシア(+Lite-On)の買収に成功すれば、NANDのシェアでトップのサムスン電子にほぼ並び、SSDのエクサ・バイトシェアでサムスン電子に次ぐ世界2位となり、SSDの出荷個数シェアでは、サムスン電子を凌駕して世界1位になることがわかった。

WDによるキオクシア買収のメリット・デメリット

 この買収が成立した場合、NANDやSSDのシェア拡大以外に、WDおよびキオクシア、それぞれについて、どのようなメリットやデメリットがあるかを考察してみよう。

 まず、キオクシアの立場になって考えてみる。キオクシアは、NANDの世界シェアはサムスン電子に次ぐ2位であるが、SSDのEBシェアと出荷個数シェアでは、どちらも1位サムスン電子、2位WDに次ぐ3位である。そして、SKハイニックスがインテルを買収すると、NANDシェアが3位、SSDのEBシェアと出荷個数シェアがどちらも4位に落ちることになる。

 キオクシアはWDと共同で四日市工場を運営しており、製造したNANDを半分に分け、それぞれのビジネスは各社が独自に行うことになっている。そのような状態で、SSDのシェアがEBでも出荷個数でもWDに劣っているのは、SSD全体の設計力が低い上に、SSDコントローラの設計を外注していることにある。ここが、キオクシアの弱点である。

 ところが、そのキオクシアがWDに買収されれば、その弱点を補うことができる。そして、かねてからの課題だったSSDビジネスの強化を図ることができるだろう。これは大きなメリットといえる。

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