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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、台頭の終焉…衰退期突入で覇権国へ戦争仕掛けるリスクに世界で警戒高まる

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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 新興大国はパワーが拡張し続ける間は、できる限り目立たずに行動し、覇権国との対決を遅らせようとする。だが新興大国の成長が天井に達し、衰退期が目の前に近づくと、悠長に構えてはいられなくなる。「トゥキディデスの罠」の真の意味は、これ以上の発展・拡大を期待できない新興大国が「挑戦の窓」を閉ざされる前に覇権国に挑むことで戦争が起きる危険性が高まるということなのだ。

「現在の中国は当時のアテネと同じ状況にある」とするブランズ氏らは「衰退期に入りつつある中国は今後10年間、自分たちの運が尽きる前に戦略的成果を得るため、より大胆かつ軽率に行動しかねない」と警告を発している。広大な領土と多くの人口を擁する点で現在の中国は、米国に次ぐもう一つの帝国といっても過言ではない。だが懸念すべきは帝国に必要な「多様性」が欠けていることだ。

ナショナリズムの台頭

 中国では今、ナショナリズムが猛烈な勢いで台頭している。朝鮮戦争をテーマにした中国映画「長津湖」が10月下旬の世界興行収入ランキングでトップに立った。朝鮮戦争に参戦した中国兵たちが厳しい寒さの中で、装備に恵まれた米軍と戦う姿を描いたこの映画は、中国で愛国心ブームをこの上なくあおっている。

 意外と思われるかもしれないが、中国はもともとナショナリズムが強い国ではなかった。ソ連崩壊により「共産主義」という統治の根拠を失った中国政府が国民の支持を取り付けるためにナショナリズムを利用したのがその始まりだ。

 中国では1996年、『ノーと言える中国』という本が出版された。米国の価値観に憧れる中国人を軽蔑し、「中国がいずれ超大国になる」と予測する内容であり、1990年代の中国のナショナリズムの台頭を示す一冊といわれた。

 中国の近代史には「アヘン戦争以来一世紀にわたって外国の帝国主義勢力に蹂躙された」という「百面国恥」が刻まれている。植民地化されたという苦い経験が深く刷り込まれていることから、中国は欧米社会が確立した国際秩序に不信感を抱き続けてきた。

 中国のナショナリズムはこれまで防御的な色彩が強かったが、リーマンショック後に中国が世界経済を牽引するようになると攻撃的なものに変わった。2012年に誕生した習近平政権が「中国の夢」を語るようになってから、状況はさらにエスカレートした。

 中国のナショナリズムはこれまで政府主導で奨励されてきたが、最近では国民のほうが過激になっている。特に留学経験のある若者たちにナショナリズムの傾向が強いといわれている。新型コロナウイルスのパンデミック封じ込めに成功したこともあって、「中国文明は世界で一番優れている」と信じるようになったのだ。だが、この偉大な国に対して国際社会からそれ相応の尊敬が与えられていない。国民の不満は募るばかりだ。中国政府は、自らつくり出したナショナリズムを制御できなくなっている。このような状況で「自国が衰退していく」という不都合な事実を断じて認めるわけにはいかない。

 民族の優越性を掲げて「帝国」を夢見ることがどれほど恐ろしい結果を招くかは、過去の歴史が証明している。窮地に追い込まれた中国政府が「国民の不満をそらすために対外的な強硬手段に出る」リスクにこれまで以上に警戒すべきだ。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

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