NEW
湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

TSMCの米国工場建設計画も米国の半導体製造強化策も破綻すると予想される根拠

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
【この記事のキーワード】, ,

 さらに、半導体の微細化でトップだったインテルが2016年に、14nmから10nmに進むことに失敗した。その結果、10nm以降の先端半導体は、台湾92%、韓国8%となり、米国はゼロになってしまった(図4)。

TSMCの米国工場建設計画も米国の半導体製造強化策も破綻すると予想される根拠の画像5

 このように、米国では半導体製造能力が空洞化し、最先端の半導体が製造できなくなった。このことに危機感を持った米国政府は、ファンドリー分野で過半を超えるシェアを独占し、インテルに代わって最先端の微細化でトップに躍り出たTSMCを国内に誘致することにした。

 当初、TSMCは建設費やインフラ代が高いことを理由に米国の誘致に難色を示していた。しかし、図5に示すように、TSMCの地域別売上高に占める割合が60~70%もある米国政府の要請を無視することができず、2020年5月14日にアリゾナに5nmのファンドリーを建設することを発表した。ただし、その際は米国政府がTSMCに補助金を出すことを約束していた。

TSMCの米国工場建設計画も米国の半導体製造強化策も破綻すると予想される根拠の画像6

米国の半導体強化の政策

 実際、米国政府の超党派の議員が、TSMCを誘致する際に補助金を出すための法案を議会に提出した。まず、2020年6月10日に米国内の半導体製造を強化し、R&Dに資金を提供し、サプライチェーンを確保することを目指した法案CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) が提出された。このCHIPSは2021年1月に可決された。

 次に、同年6月25日に半導体製造に補助金を出すための法案としてAFA(American Foundries Act of 2020)が提出された。これはのちに半導体を含めた先端技術を強化する法案“U.S. Innovation and Competition Act”としてまとめられ、2021年6月8日に上院で可決された。しかし、下院ではいまだ可決されていない。そして、この法案が下院で可決されないと補助金を投じることができない。

 時期は前後するが、2021年1月20日に第46代米大統領となったジョー・バイデン氏は、2月24日に半導体供給網を見直す大統領令に署名し、3月31日に半導体製造強化のために520億ドルの補助金を投入することを発表した。そして4月12日には、TSMC、サムスン、インテル等の招集した半導体サミットを開催した。

 このように、米国はTSMCを誘致し、それに520億ドルの補助金を出すための法律を準備しようとしているが、半導体不足は一向に解消せず、むしろ悪化の一途をたどった。米商務省は5月20日にTSMCやサムスンを招集して対応策を協議したが具体策は定まらず、8月下旬には米国をはじめ日本や欧州でも半導体不足でクルマの生産が大きく落ち込む事態となった。

TSMCをめぐるインテルとサムスンの動き

 米国政府がTSMCを誘致し、520億ドルの補助金を支出しようとしていることに対して、インテルやサムスンも反応した。以下に、この2社の動きについて説明する。

 まず、2030年までにファンドリー分野でTSMCに追いつく目標“Vision2030”を掲げているサムスンはTSMCに対抗して、やはり米国に170億ドルを投じてファンドリーを建設すると3月に発表した。建設予定地としては、テキサス、ニューヨーク、アリゾナが候補に挙がっている。

 2016年に10nmの半導体の量産体制立ち上げに失敗したインテルは、一時期ファブレスになる可能性も浮上した。ところが、2021年2月15日に8代目CEOに就任したパット・ゲルシンガー氏は3月23日に、「IDM2.0」と名付けた戦略により、垂直統合型IDM(Integrated Device Manufacturer)を維持・拡大するとともに、ファンドリー事業を開始する方針を打ち出した。そして、240億米ドルを投じてCPU用とファンドリー用の2つの半導体工場をアリゾナ州に建設すると発表した。

 加えて、ゲルシンガーCEOが、米国がTSMCに補助金を出すことに異議を唱えていることが6月24日に明らかになった(ポリティコ)。簡単にいうと、ゲルシンガーCEOはこの寄稿で、「米国の補助金は税金である。したがって、その補助金はTSMCではなく、我々インテルによこせ」と主張したのである。

RANKING
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合