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日鉄、トヨタとの関係悪化を気にせず容赦ない値上げ…訴訟招いたトヨタの自業自得

文=桜井遼/ジャーナリスト
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 しかし、長田執行役員が提訴を批判した内容を聞いた日鉄の幹部は呆れ顔だ。長田執行役員は、担当者が提訴を主張してもトップが「ノー」と言えば下も従うとして、提訴する前にトップ同士が対話するべきだったと主張した。これに対して日鉄のある幹部はいう。

「さすがパワハラで社員から自殺者が出る会社だ。トヨタのように社長の意に反したら粛清される会社とは(日鉄は)違う。社員の意見を重視するオープンな会社だ」

 日鉄では、今回の問題は「宝山鋼鉄の電磁鋼板を採用すればコストを抑えられると安易に考えたトヨタの調達部門のミス」(日鉄)とみる。日鉄からトヨタの調達部門に対して宝山鋼鉄の電磁鋼板が特許を侵害しているとの情報が事前に伝えられたにもかかわらず、「いいことしか耳に入れない豊田社長の逆鱗に触れることを恐れて、その事実を伝えていなかった可能性がある」と指摘する業界関係者もいる。

 またトヨタは、さまざまな国や地域から調達している部材のすべてに関して、特許を侵害していないかなどの調査を自前ですべてやるのは不可能と主張する。しかし、日鉄側が特許侵害を主張している電磁鋼板を「外部の専門家に依頼するなどして調査することはできたはず」との見方は強い。この点に関してトヨタの長田執行役員は「係争のなかで話すことなのでコメントできない」と回答しなかった。

確実に開くトヨタと日鉄の溝

 かつて「鉄の結束」と呼ばれる関係にあったトヨタと日鉄に溝が目立ちはじめたのは、日鉄の鋼材価格の値上げ要請を、トヨタが長年認めてこなかったことが原因だ。トヨタ向け鋼材価格は指標となることから、鉄鋼業界全体に波及、日鉄の収益力低下を招いた。

 この状況に危機感を抱いた橋本社長は背水の陣に打って出る。トヨタが鋼材価格の値上げを認めない最大の理由である需給バランスを改善するため、高炉の閉鎖による生産能力の削減を決断する。同時に、トヨタに対して強気の価格交渉を展開、要求する価格水準を認めない場合、鋼材の供給量を減らすことも示唆した。鋼材の供給量が減らされ、自動車生産に影響が及ぶことを避けるため、トヨタは鋼材価格の大幅値上げをしぶしぶのんだ。この頃からトヨタと日鉄は、水面下で相手を非難するなど、ギクシャクした関係になっていった。

 結果的に鋼材価格の値上げが奏功して日鉄の業績は前期の赤字から過去最高益とV字回復を遂げる見通しとなった。一方のトヨタの21年4~9月連結業績は、鋼板値上げなど原材料価格高騰の影響を受けたものの、収益性の高いSUVの販売が好調だったのに加え、円安の追い風もあって純利益が前年同期の約2.4倍となる1兆5244億円と過去最高となった。

 このため、日鉄は「まだまだ鋼材価格のマージンを引き上げる余地がある」とみており、21年度下期(10月~22年3月)の価格交渉でもトヨタとの関係悪化を気にせず強気の姿勢で値上げを求めていく方針だ。トヨタも海外鉄鋼メーカーなど、日鉄以外の鋼材の調達を増やすことなども視野に検討していく方針。両社の溝は確実に開く見込みで、今後の動向から目を離せない状況が続く。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

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