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日本の半導体製造が凋落した理由…TSMCが台湾を離れないのは国策?

文=白川司/評論家、翻訳家
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 通常であれば、企業を守るためにリスク分散を考えて、実質的な友好国であるアメリカや日本などに技術拠点を分散させるところだが、TSMCに関してはその考えはない。

 それも当然のことだろう。いまや半導体製造は台湾にとってもっとも重要な産業であり、いわば台湾=TSMCなのである。

 また、中国が台湾を併合してTSMCの技術を設備と人材ごと取られてもっとも困るのは、アメリカである。TSMCの技術があるからこそ、アメリカは台湾を死守せねばならない。

 だから、TSMCが台湾から動かないことは、台湾にとってアメリカのバックアップを獲得するために、もっとも重要な安全保障政策になっている。

アメリカがサムスンの工場を誘致したわけ

 アメリカは半導体をはじめとするIT技術の第1集積地をテキサス州に定めて、多くの技術企業を誘致している。TSMCは要請を受けて、5nm半導体工場を建設し、2024年から稼働することが決まっている。

 ところが、テキサスにはサムスンも5GやAIなどに使われる最先端半導体の工場を建設することが決まったのである。いずれも大きな支援を確約しており、かなりの財政を支出するにもかかわらず、である。

 これは、台湾有事に備えてアメリカ側がリスク分散をはかったものだろう。つまり、中国が台湾併合に乗り出した場合、たとえその試みが失敗したとしても、TSMCが大きな混乱に巻き込まれるのは間違いない。そうなれば、サムスンに頼らざるを得なくなるのである。

 また、TSMCとサムスン側から見ると、アメリカ政府の要請を受けて工場建設を進めるのは、あくまで大型の支援があるからにすぎない。生産性だけを考えれば、アメリカ工場は特に建設コストと労働コストが高すぎ、採算性に大きな問題が生じるのである。中国工場はもちろんだが、台湾工場ですら数割のコスト増になると報じられている。

 この点は、最近建設が決まったTSMCの熊本工場も同様で、TSMC側はあくまで支援ありきの進出である。人件費が安いという評価も出始めている日本だが、生産性については、まだ有利とまではいえない。

 また、熊本工場は自動車用半導体を中心とするもので最先端半導体ではなく、アメリカ工場より数段格落ちである点も留意すべきだろう。あくまで自動車用など汎用性の高い半導体を確保するための方策にすぎない。その点、日本の半導体対策はまだ周回遅れの感が否めない。

高性能半導体の国産化は現実的か?

 工場誘致ですらこれほど大変なのであるから、「財政を使って最先端半導体を国産化する」というのが、相当な難事業であることは言うまでもない。

 台湾は勤勉な国民性があるが、なにしろ中国侵攻のリスクがある。韓国は素材の供給が弱いことや、水不足の問題も解決できていない。

 日本の場合、かつて世界一の半導体生産国であり、いまだにメモリやアナログ、製造機械や素材で強みを持っている。だが、技術競争に追いついていかなければ、強みがいつ崩れるかわからない。

 日本にとって重要なのは、1990年代に半導体のビジネスモデルで失敗した轍を再び踏まないことである。まず企業側が生き残りのためのビジネスモデルを確立して、それに政府が協力するという形をとることだろう。

 そして、ビジネスモデル成功のための技術革新については大型財政を組むという形をとることがもっとも重要である。

(文=白川司/評論家、翻訳家)

白川司(しらかわ・つかさ) 評論家・翻訳家。世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。著書に『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、近著に『そもそもアイドルって何だろう?』(現代書館)。「月刊WiLL」(ワック)で「Non Fake News」を連載中。

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