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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しない

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 28nm(改良品の22nmを含む)の半導体を数え上げたらきりがない。これら28nmの半導体の需要が、コロナ禍で大爆発した。そして、これら28nmは、ほとんどがファンドリーへ生産委託されている。

ファンドリーの売上高シェア

 コロナ禍でノートPC、ゲーム機、ウエアラブルなどの電子機器の市場が急拡大した。そして、多くの電子機器(自動車含む)には28nmの半導体が使われていて、これらの需要も急拡大した。そして、28nm(22nm)のほとんどがファンドリーの生産委託に頼っている。

 そのファンドリーの2021年と2022年の売上高シェアの予測を見てみよう(図3)。シェア1位のTSMCは2022年にさらにシェアを伸ばして57%になると予測されている。2位のサムスン電子(17%)、3位の台湾UMC(7%)のシェアには変動がない。4位の米GlobalFoundries(GF)は1%シェアを下げて5%になり、5位の中国SMIC(5%)のシェアは変わらない。

助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しないの画像3

 では、上記のファンドリーで28nmを生産できるところはどこか?(図4) TSMCが2011年から28nmの量産を開始した。翌2012年、サムスン電子とUMCが28nmの量産を開始した。2013年にはGFが、2015年にSMICが、2018年にはHH Grace(中国)が、それぞれ、28nmの量産を開始した。

助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しないの画像4

 ここで注意が必要なのは、サムスン電子のファンドリーは、主として自社のスマートフォンGalaxy用のプロセッサの生産を目的としているため、次々と微細化を進めており、レガシーな半導体の生産は止めてしまうということである。したがって、現在、サムスン電子は28nmの半導体を生産できないだろう。

 となると、世界的に逼迫している28nmの半導体をつくれるのは、TSMC、UMC、GF、SMIC、HH Graceの5社ということになる。しかし、図3で見た通り、ファンドリーの売上高シェアの過半をTSMCが独占している。したがって、世界的に需要が拡大している28nmの生産委託が殺到しているのは、TSMCであるといえよう。

世界的に足りないのは28nmの半導体

 ここまでをまとめると、コロナ禍によってニューノーマルが定着し、ノートPC、ゲーム機、ウエアラブルなど各種電子機器が爆発的に売れるようになった。そして、それら電子機器に使われている半導体需要が急拡大した。そのなかでもコストパフォーマンスに優れ、十分な性能がある、プレーナ型トランジスタの最後の世代の28nmが世界的に不足していると考えられる。

 要するに、28nmの半導体が「スイート・スポット」になっている。そして、この28nmは主としてTSMCに生産委託されており、TSMCの28nmのキャパシティがボトルネックになっていると推測できる。

 図5に、TSMCのテクノロジー・ノードごとの四半期売上高を示す。UMC、GF、SMICなども工場をフル稼働しているだろうが、世界的にTSMCの28nmのキャパシティが1番大きい。ここに、世界中から生産委託が集中している。飛躍的に28nmのキャパシティを拡大するためには、工場を新設するしかない。しかし、TSMCには、その余裕がないことを以下で説明する。

助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しないの画像5

TSMCの事情

 TSMCは今年2021年に300億ドル(約3.4兆円)を投資する。来年2022年は345億ドル(約3.9兆円)に投資額が増える。社員数も昨年2020年に8000人増員して約5万6000人になり、今年は9000人増やす予定となっている。

 なぜこれほど投資をし、社員数を増やすのかというと、ほぼすべては最先端の微細化を進め、その半導体を量産するためである。今年TSMCは5nmの大量生産を行っている。来年2022年は3nmの量産を開始しなければならない。加えて、2024年から量産予定の2nmのR&Dも同時並行で行わなければならない。

 このように最先端の半導体の量産と開発にすべてのリソースを集中しているTSMCには、いくら世界中から生産委託が殺到しているといっても、10年前のレガシーな技術の28nmの工場を新設する余裕はないだろう。

渡りに船の日本政府の誘致

 このようにTSMCは、最先端は進めなければならない上に、レガシーな28nmの生産委託も殺到するという苦しい状況に追い込まれたと思われる。TSMCは最先端に特化しなければならないが、28nmも無視できない。というのは、今年2021年1月25日には、日米独の各国政府から台湾政府を経由して車載半導体の増産要請をされたこともあり、28nmを放置すると、政府からの圧力が掛かったりするからである。

 ところが、このようなタイミングで日本政府と経済産業省が、しきりに日本への工場誘致を口説いてくる。TSMCの地域別売上高比率では、日本はたかだか4~5%しかビジネスがなく、日本のために工場をつくる合理的な根拠は何もない(図6)。

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