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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しない

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 しかし、経産省の話を聞くと、28~22nmの月産4.5万枚の工場については、ソニーの熊本工場の隣に工場用地を準備して、インフラも整備し、建設費や製造装置費用の半分(5000億円)を助成してくれるという。さらに、この支援は複数年続き、ソニーやデンソーも協力してくれるという。

 その上、日本政府や経産省やその他のアナリストなどから、「日本半導体の復興のために世界最先端の技術を持つTSMCが来てくれる」と感謝までされる。TSMCにとっては、もう願ったり叶ったりの“美味しい話”である。TSMCの幹部にとってみると、笑いが止まらないのではないだろうか?

TSMCの熊本工場に税金を投入するのは馬鹿げている

 TSMCが正式に熊本に工場をつくることを決定し、経産省も5000億円規模の助成をする(それ以上に複数年の支援をするという話もある)。そして、これをきっかけに世間では日本半導体産業が再興するという話で持ちきりである。日本人とは、なんとまあ、おめでたいことだろうか。

 TSMCはボランティアではないし、慈善事業団体でもない。れっきとした営利企業である。その事業はすべて、営利目的のものである。日本の熊本に月産4.5万枚の工場をつくり、世界的に不足している28~22nmを大量生産し、世界中に売りまくるわけである。そして、その利益はTSMCの懐に入ってくることになる。

 このような営利企業であるTSMCのために、日本の税金を使うのは、はっきり言って間違っている。28~22nmの工場を熊本に建設したいのなら、自力でやってもらえばいいのである。ソニーやデンソーが協力したいのなら、すればいい。しかし、土地、インフラ、助成金など、日本の税金を使うことは許せない。いち納税者として、断固、異議を唱えたい。

日本半導体産業は復興などしない

 そして、TSMCが熊本に工場をつくることによって、「日本半導体産業が復興する」などと寝ぼけたことを言っている政府、経産省、アナリスト、メディアにも言っておきたい。TSMCが熊本に工場をつくっても、日本半導体産業は復興しない。というのは、TSMCが技術移管するのは10年前の技術の28 nm(22nm)に限る。そして熊本工場は、28 nm(22nm)の半導体を生産し続けるが、その先の16~14nmのFinFETに微細化を進めることはないからだ。

 もし、日本半導体産業の復興を実現したいのなら、28~22nmの熊本工場を足掛かりにして、日本人技術者が自力で16~14nmのFinFETを量産できるようにしなければならない。これについては、TSMCは一切、支援してくれない。

 技術者の問題だけでない。16~14nmのFinFETを量産する場合、日本にはその半導体を必要とする設計専門のファブレスが存在しない。したがって、海外の先端ファブレスからビジネスを取ってこなければならない。

 2000年から今日まで、DRAMから撤退した日本半導体産業がSOCで壊滅的になったのは、このようなマーケティングや営業ができなかったことによる。それをいきなり「やれ」と言われてもできるはずがない。

結論

 コロナ禍によってニューノーマルが定着し、各種電子機器が爆発的に売れるようになった。その電子機器用の半導体としては、28nmがスイート・スポットになっており、これが理由で世界的な半導体不足が起きている。ファンドリーの売上高シェア世界1位のTSMCには、28nmの生産委託が殺到しているが、新たに台湾に工場を建設する余裕はない。

 ところが、日本政府と経産省が破格の条件で、熊本に工場の建設を支援してくれるという。しかも、日本半導体産業の救世主的存在として感謝までされている。TSMCにとって、こんなに美味しい話はない。そして、TSMCが熊本工場で量産した28~22nmの半導体は、世界中に販売され、その利益はTSMCの懐に入ることになる。TSMCは日本に工場をつくるが、「日本のために」工場をつくるのではない。自身の利益のために工場をつくるのである。TSMCという、いち営利企業の利益のために、日本の税金を使うべきではない。いち納税者として、TSMCに助成金を出すことに断固、反対したい。

 もし、のちのち「間抜け!」というレッテルを張られたくないなら、政府も経産省も、TSMCへの助成金の支出をやめるべきである。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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●湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。

・公式HPは http://yunogami.net/

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