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「手抜き」「主婦が買うもの」イメージを覆す冷凍食品、驚きの進化と最新事情

文=真島加代/清談社
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日清食品冷凍の「冷凍 日清本麺」(「日清食品グループHP」より)
日清食品冷凍の「冷凍 日清本麺」(「日清食品グループHP」より)

 電子レンジやフライパンで加熱するだけで手軽に食べられる冷凍食品。今やすっかり身近な存在となったが、近年は本格フレンチや握り寿司の冷凍食品が登場するなど、さまざまな可能性が広がっている。

 日本で冷凍食品事業がスタートしたのは1920年。貿易商だった葛原猪平氏がアメリカから技術士の親子を招いて冷凍倉庫を建設し(場所は北海道・森町の現ニチレイフーズ森工場内)、水産物を凍結して売り出したのが始まりだという。2020年に100周年を迎えた日本の冷凍食品がこれまで歩んできた道のりと、業界の最新事情に迫った。

スーパーの安売り戦略で普及した冷凍食品

 冷凍事業は1920年に始まっていたものの、家庭でも食べられるようになったのは60年代半ばからだという。

「70年代には各家庭に2ドア冷蔵庫が普及して食材を冷凍保存する環境が整い、冷凍食品の市場も広がっていきました。また、餃子やコロッケなどの定番メニューだけでなく、さぬきうどんなどの冷凍麺ブームをはじめ、冷凍焼きおにぎり、冷凍そばめしなど、時代とともに数々のヒット商品が生まれたことも普及に拍車をかけたと思います」

 そう語るのは、冷凍食品ジャーナリストの山本純子さん。ヒット商品の誕生に加えて、スーパーマーケットの販促方法も冷凍食品の広がりに影響を与えたという。

「スーパーが実施していた“ハイ&ロー”な価格戦略と冷凍食品の普及は、深く関わっています。ハイ&ローとは、特売日に商品の価格を極端に下げる販売方法です。80年あたりに、あるスーパーが冷凍食品の認知度を上げるために、月に一度『冷凍食品の3割引セール』を始めました。それが大盛況となり、お弁当用商品の人気も重なって、ほかの店でも特売日に冷凍食品を安売りすることが定番となり、低価格競争が加速していきます。こうしたスーパーの戦略によって、家庭での冷凍食品の常備率が上がっていったのです」(同)

 しかし、ハイ&ローは設定された特売日以外は定価のため、通常時は高くついてしまう。こうした特定の日だけ大幅に安くなる販売方法については、消費者庁から大手スーパーに対して「二重価格表示の可能性」が指摘され、ハイ&ロー戦略は下火に。現在は、低価格商品を通年で提供する「エブリデーロープライス(EDLP)」での販売が主流になっているという。

「安売りの時代を経て、冷凍食品の“味”に注目が集まってきたのが2015年頃です。冷凍食品メーカー各社がクオリティの高い冷凍チャーハンを開発して“炒飯戦争”が勃発します。CMにもイケメン俳優を起用するなど、認知度が急速に高まっていきました」(同)

 そうしたCMのおかげで独身男性も冷凍食品を買いやすくなった、と山本さんは分析する。

「17年頃には、コンビニで冷凍食品のPB商品が増えてきます。セブン-イレブンは、缶ビール1本と冷凍食品をひとつ買ってもらうと、ほぼワンコイン(500円)という“おかづまみ戦略”を打ち出し、おつまみ商品を充実させました。昔は『冷凍食品は主婦が家族のために買うもの』というイメージがありましたが、現在はシニアから若い世代まで間口が広がり、『買いたい人が買うもの』になっていますね」(同)

 そして、20年から続くコロナ禍は冷凍食品業界にもさまざまな影響を及ぼしているという。特に家庭用冷凍食品は大幅に売り上げがアップしたそう。

「自粛生活で買い物の回数を控えなければならず、3食自炊も大変ということで、今までスーパーでつくったお惣菜やチルド食品を買っていた人が、長期間保存できる冷凍食品を手に取るようになりました。さらに、この好調な売れ行きは一時的なものにとどまらず、自粛明けムードが高まってきている最近でも、冷凍食品の売り上げは落ちていません。コロナ禍を機に冷凍食品を新規で買った人たちが、その利便性とおいしさに気づき、リピートしているようです」(同)

 家庭用冷凍食品が特需を迎えている一方で、業務用冷凍食品は飲食店の時短営業や休業によって出荷数が大幅減。家庭用も展開している冷凍食品メーカーはその損失をカバーできたが、業務用専門のメーカーは苦戦を強いられているという。

注目の冷凍食品とは

 100年の歴史を経て、私たちの生活に浸透してきた冷凍食品。コロナ禍を経て、さらに進化が止まらないというのも驚異的だ。そこで、山本さんに冷凍食品業界で注目の商品やサービスを挙げてもらった。

冷凍 日清本麺(日清食品冷凍)

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 山本さんが「冷凍ラーメンのイノベーション」と太鼓判を押すのが、日清食品冷凍の「冷凍 日清本麺」だ。冷凍ラーメン自体も近年人気が高いカテゴリーだが、この商品は、お店の味により近づけるため「生麺ゆでたて凍結製法」という新たな技術を開発したという。

「通常、冷凍麺は生麺をゆであげてから水でしめて凍結します。うどん・そば、パスタは良いですが、熱々麺と熱々スープが基本のラーメンは違う風味や味わいになってしまいます。さらに、日清食品冷凍の生麺ゆでたて凍結製法は麺をゆであがりの一歩手前で止め、レンジで温めたときに“麺がゆでたての状態”になるように工夫をしているそうです」(同)

 開発に6年の年月と多額の資金を投じた生麺ゆでたて凍結製法は、現在特許出願中のため詳しい方法は明かされていない。まさに企業秘密の製法なのだ。

「実際に食べてみると、麺の香りや味、コシがこれまでの冷凍ラーメンとは違います。日清食品冷凍が長い時間をかけて追求したラーメンが、たった300円ほどで食べられるのもうれしいですよね。ラーメン好きにこそ食べてほしい逸品です」(同)

・シャウエッセン(R)ドッグ(日本ハム)

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 日本ハムの看板あらびきウインナー・シャウエッセン(R)の通常の約1.3倍の長さのウインナーを自家製ナーンで包んだ「シャウエッセン(R)ドッグ」は「新たなニーズを獲得した冷凍食品」(同)だという。

「お弁当や夕食に冷凍食品を使う家庭が多いですが、シャウエッセンドッグは“朝ごはん需要”を一気に開拓しました。はじめからケチャップとマスタードが塗ってあるので、レンジで2分ほど温めて野菜を加えると立派な朝食になります。手間も時間もかからないので、忙しい朝に食べる人が多いようです」(同)

 味がシンプルなため、チーズのちょい足しなどのアレンジを楽しむ人も多いという。21年7月に発売されてすぐに話題となり、21年秋冬「料理レシピ3メディアが選ぶ新商品グランプリ」(日本アクセス主催)で冷凍食品部門第1位、総合部門1位を獲得した話題の商品だ。

・Grino(Red Yellow And Green)

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 加工した大豆を肉に見立てる“大豆ミート”など、植物由来の食品を指す「プラントベースフード」は、サステナブルな未来を目指す上で重要な食品として注目を集めている。冷凍食品宅配ブランドの「Grino」は、このプラントベースフードを使った冷凍食品を届けてくれるサービスだという。

「同社の細井優社長は『欧米に比べて食糧問題への関心が低い日本の家庭が、週に1回くらいはと考えてプラントベースフードを取り入れるには、冷凍食品が適しているはず』と考えて事業をスタートしたそうです。単品注文もできますが、定期便にすれば週に1回、ミートフリーな食事が届きます」(同)

 また、Grinoでは、人々が抱いているプラントベースフードに対する“物足りなさ”を解消するため、素材や味にこだわったメニューを提供しているという。

「冷凍生活アドバイザーの西川剛史氏が監修していて、『バターチキンカレー』や『広東風麻婆茄子』など、お肉を使っていないとは思えないほど満足感のあるメニューが多いのが特徴です。ただ食べるだけでなく、冷凍食品を食べること自体が食糧問題への配慮につながるなら一石二鳥ですよね」(同)

 令和の冷凍食品は、食糧問題にも一石を投じる存在のようだ。

いまだに根強い冷凍食品への“誤解”

 最近はスーパーの冷凍食品売り場も拡大され、種類も増え続けている冷凍食品。しかし、「今も冷凍食品にマイナスイメージを抱いている人は少なくない」と山本さんは嘆く。

冷凍食品にはさまざまなメリットがあります。メーカーは食材の目利きから、切る、洗う、煮る、焼く……と普通の料理と同じ工程でつくっている。いわば調理の手間を担ってくれている『手間抜き食品』なんです。また、マイナス18℃以下での保存は細菌が増えないので、保存料を使わずに長期保存ができるのも魅力。本来、安心して長期保存ができて、家事の負担も減らせる食品なのですが、いまだに『冷凍食品=手抜き』『本物に似せた加工食品』など、間違った認識を持っている人はとても多いです」(同)

 山本さんは「冷凍食品は、時間を止めて空間を超越できる“システム”。上手な使い方を考えて、多くの人に冷凍食品を食べてほしい」と語る。進化と技術の結晶は、スーパーの冷凍食品売り場に並んでいる。ぜひ覗いてみてはいかがだろうか。

(文=真島加代/清談社)

●冷凍食品ジャーナリスト 山本純子
冷凍食品専門紙の記者・編集長・主幹として34年のキャリアを積み、2015年10月に独立。「冷凍食品エフエフプレス」を立ち上げ、冷凍食品情報を届ける。また、冷凍食品マニアとしてメディアでも活躍。

●「冷凍食品エフエフプレス

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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