新型コロナの変異種のなかで感染力が高まったのはアルファ株とデルタ株だ。アルファ株では4つのアミノ酸配列の最初のプロリン(P)がヒスチジン(H)に変わり、デルタ株ではこれがアルギニン(R)に置きかわっている。どちらの変化もアミノ酸配列のアルカリ度が上がったことで、フリンの機能がより活性化された。
このことからわかるのは「このアミノ酸配列がさらに変化すれば新型コロナの感染力がさらに高まる可能性がある」ということだ。世界の科学者たちがオミクロン株に非常に強い警戒心を抱いているのはそのせいではないかと筆者は考えている。
ちなみにこのアミノ酸配列は、SARSに限らず他のコロナウイルスには存在していない。このアミノ酸配列は高病原性鳥インフルエンザには存在することから、「人工的に挿入されたのではないか」との疑いが持たれている。「中国の武漢ウイルス研究所でSARSウイルスのスパイクタンパクにこのアミノ酸配列を挿入する実験(機能獲得実験)が行われた」との説も浮上している。
ウイルスが不安定化?
話をオミクロン株に戻すと、「変異の多さは必ずしもウイルスの強さを意味しない」との見方も出ている。オミクロン株にはデルタ株の強力な感染力に寄与した変異の一部は存在しないとの見解もある(12月1日付CNN)。
重症化のリスクについては、南アフリカ医師会のクッツエー会長は「オミクロン株患者の症状はこれまでのところ軽く、自宅療養が可能でパニックを起こす理由はない」と主張している(11月29日付ロイター)。ワクチンの効果が低下することが懸念されているが、免疫力は中和抗体のみで決まるわけではない。ワクチン接種によりウイルスに感染した細胞を破壊するキラーT細胞などの働きも強められており、総合的な免疫力が大きく毀損することはないだろう。
「一度に多数の変異が起きる」ことは必ずしもウイルスの生存にとって望ましいことではないとの見方もある。南アフリカの医師は「多数の変異が生じたことでウイルスは不安定化している」とみている。「ウイルスが変異しすぎると自滅する」という仮説(エラー・カタストロフの限界)も存在する。
オミクロン株がデルタ株に置きかわれば、感染力が高くなったとしても重症化のリスクが抑えられることから、新型コロナの収束の時期がかえって早まるとの見方もできる。楽観は禁物だが、オミクロン株を過度に心配しなくてもよいのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)