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「雇用保険が破綻寸前」は厚労省による世論誘導?給付カットの半面、積立金は激増

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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 本来、危機を乗り切って雇用情勢が回復すれば、カットしていた給付を元に戻すべきだったが、それを行わず、ひたすら周辺部分の給付を増やし、保険料&財政負担を減らし続けて、積立金激増への批判をかわしてきたように見える。結果、失業して困窮した者への給付はほとんど増やさず、比較的恵まれた層へのみ手厚くするというチクハグな対応が、この数年続いた。

 一例を挙げると、育児休業給付。失業給付にかかわる保険料が暫定措置によって0.2%まで下げられた。一方で2020年度からは、育児休業給付の勘定を別立てとすることになり、こちらの保険料がその2倍の0.4%である。

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 ということは、労使折半で負担している雇用保険は、失業保険の機能よりも、夫婦揃って働いている人のための育児休業給付保険の機能に2倍の保険料が充てられていることになる。これでは、失業保険というよりも育児休業保険と呼んだほうがいいくらいだ。今回、もし失業給付にかかわる保険料が0.6%まで引き上げられれば、ようやく元の失業保険に戻るのだ。

 もちろん、育児休業に対する支援が急務なことは論をまたないが、積立金が激増した雇用保険だけにその負担を押し付けて、失業給付の機能が貧弱なまま人気取り政策に邁進してきた政治的な圧力があったのではないかと思わざるを得ない。

 長年の給付カットによって雇用保険のサイフ(積立金)がパンパンに膨れ上がり、その使途に困ったあげく闇雲に保険料を下げ、周辺部分のみ大判振る舞いしたツケが回ってきたとしか思えない。

 もう一点忘れてはならないのは、今回の積立金が枯渇寸前まで陥った原因となったのが、激増した雇調金だったことである。

 それにもかかわらず、雇調金に充てる、企業のみが負担する雇用二事業の保険料率は0.3%から0.35%と0.05ポイントしか引き上げを予定していない。労使折半で負担する失業給付にかかわる保険料率を、0.2%から0.6%まで引き上げる厚労省案の率と比較すると、0.05ポイントという引き上げ率は、あまりにも低い。しかも、失業給付とは違って、雇用二事業への国庫負担はゼロのままだ。

 保険財政が危機に陥ったとされたのは、この部分の支出が膨らんだためなのに、そちらの保険料はほとんど引き上げず、それどころか引き下げの弾力条項を整備してきた。それなのに、コロナ禍でもあまり増えなかった失業給付の部分のみにしわ寄せがいくのも、なかなか納得しづらいところである。

 厚労省では、年内に出される審議会の答申結果を踏まえて、年明けには保険料引き上げを盛り込んだ措置を早急に取る予定だという。

“財政危機”を必要以上に煽るニュースは、巧妙な世論工作が隠されているのではないのかとの疑いを持って、くれぐれも注意して読んでいただきたい。早急に対策が必要なのは、保険財政立て直しなどではなく、穴の開いたセーフティーネット=安全網の再構築なのだ。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

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