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江川紹子の「事件ウオッチ」第193回

【伊藤詩織さんネット中傷訴訟】江川紹子が考える“賠償金額の低さ”と“単純RTの意味”

文=江川紹子/ジャーナリスト
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情報発信は容易になっているが、それに伴う責任は大きいということを知らしめるべき

 単純RTがどのような場合に名誉毀損に当たるかは新しい問題で、いまだ最高裁の判例はない。先の中澤弁護士は「下級審ごとに、ケースバイケースの判断をしている」と現状を説明する。ただし最近は、単純RTをした者にも責任が認められることが多く、責任を問われないのは、別のツイートで当該元ツイートに疑問を呈するなど、なんらかの手当をしている場合だという。

 司法判断の基準は、今後裁判例が積み重なることで決まっていくのだろうが、単純RTでも責任を問われ得るという方向性は変わらないだろう。SNSユーザーは、自らの自由な表現を確保するためにも、この司法の傾向を自覚する必要があるだろう。

 中澤弁護士は、事務所HPのなかでこう指摘している。

〈もちろん元ツイートに対して賛同して積極的に攻撃する人は大きな問題ですが、そのようなレベルまでいかず、深い考えもなくリツイートし被害を拡大させる多数の“無自覚な加害者”こそが深刻な被害を引き起こしているのです〉

 では、この「無自覚な加害者」を減らしていくにはどうすればいいのか。

「情報発信は容易になっていますが、それに伴う責任は大きいというのを広めるしかないと思います。制度論的には、発信者情報開示制度を充実させ、被害者の権利行使を容易にすること。現状は、責任追及のコストや法的ハードルが高すぎるため、事実上責任を問われない範囲が広く、その結果、無責任な情報発信も増える悪循環になっている」(中澤弁護士)

「今回のように、イデオロギーがからむ確信犯型(誹謗中傷)は、社会の分断を反映しているともいえ、なくすのはなかなか難しいが、よくわからないままRTする人や付和雷同型には、啓発やこうして司法で責任を問われることを周知していくべきでしょう」(曽我部教授)

 RTのボタンをクリックする前に、一瞬手を止めて、これが被害を生まないか、自分の責任を問われないか、考えるようにしたい。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

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