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高橋篤史「経済禁忌録」

関西スーパー、H2Oとの経営統合、なぜ否決から賛成に一転?株主総会での真相

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 そのように語りかける中で冒頭の発言も出たとされる。投票用紙には投じた株主が判別できるよう受付番号が記されていた。だから白紙のまま投票用紙を入れても事前の議決権行使書と突き合わせれば、そちらで賛成意思が表示済みと分かるはずだと男性は考えたわけである。その際、男性は人差し指で投票用紙左上の角をトントンと叩いた。この様子は会場後方に設置されたカメラの映像記録に残っていた。大阪高裁はこれを受付番号を指し示す行為と認定している。

いったんは「否決」に

 午後1時55分頃、すべての投票用紙が回収され、議場閉鎖は解除された。集計後、午後3時に再開する予定とされた。が、接戦のため集計は予想外に時間がかかった。再開予定だった午後3時頃、休憩を午後4時まで延長することがアナウンスされた。

 それからホテル内を歩き回るなどして時間を潰していた男性は不安を感じ始めたようだ。自身が白紙のまま入れた投票用紙の取り扱いがその後どうなったのか心配になってきたのである。

 この時点で男性は知るよしもないが、公正な総会運営を行うため裁判所によって選任された検査役弁護士も見守る中、ホテル2階に設けられた集計会場では結果が判明していた。「集計完了」。会場でそう声が上がったのは午後2時50分頃とされる。約7分後、検査役弁護士は係員から「議決権行使集計結果報告」を受け取った。経営統合案に関する第1号議案への賛成は65.75%。特別決議に必要な3分の2にはほんのわずかだが届かない。つまりは否決だ。午後3時20分頃、検査役弁護士は3階の会場に戻った。

 男性がエスカレーターに乗って1階から2階に上がり、受付に訴え出たのは午後3時40分頃のことだ。男性は2階「朱雀の間」に通され、関西スーパー側の代理人を務める森・濱田松本法律事務所の弁護士複数に経緯を説明した。5分後、検査役弁護士がやって来て同じ説明をした。会社側代理人は男性の説明を受け、いったんは投票用紙を基に「棄権」と集計していた議決権を、その意思を鑑みて「賛成」と集計し直すのが適当との方針を固めていた。検査役弁護士はその説明を聞き、午後3時50分頃、会場に戻って行った。

 午後4時10分頃、総会は再開され、採決の結果が読み上げられた。第1号議案への「賛成」は66.68%。経営統合案は可決されたのである。もっとも、会場に居合わせたオーケーをはじめ他の株主は裏側で異例の事態が進んでいたことなど微塵も知らない。6日後、検査役弁護士が作成した中間的な報告書で経緯を知り、「棄権」が「賛成」に転じた適法性に疑義を抱き神戸地裁に差し止め請求を申し立てることとなったわけである。

分かれた大阪高裁と神戸地裁の判断

 果たして、男性の会社が保有する26万2000株の議決権はどう扱われるべきか。

 一連の経緯を踏まえると、男性の会社が議案に賛成する意思を強く持っていたことは明白だ。じつのところ、委任状の取り扱いや採決方法など株主総会に関する事細かな実務について厳密な法律的定めはなく、各社統一のルールもない。こと採決方法に限れば公正さが担保されているなら議長の裁量に委ねられており、それゆえ事前に賛否が決していれば当日は拍手や挙手で会場の株主に賛否を問うことも許容されているのが実際だ。

 大阪高裁は総会における株主意思の確認を最も重視した上で、そうした裁量的な実際面に立てば関西スーパーによる今回の取り扱いは適法であるとの判断を示した。最高裁も「議決権行使者の意思が賛成するものであることが明確であった事等……原審(=大阪高裁)の判断は結論において是認することができる」と判示している。

 これらに比べると、神戸地裁の判断は寄せ集めたそれぞれのルールに縛られた四角四面の色彩が濃い印象だ。「棄権」と「不行使」の違いがアナウンスされていたことを重視し、個々の行為に民法の委任契約や会社法の包括的職務執行権限(男性は副社長ではあるものの代表取締役に任じられていた)を当てはめ、事前の議決権行使書を無効とし、かわりに当日の投票用紙の記載を優先するとした判断は、どこか窮屈だ。

 投票時の男性の行動は関西スーパー側の説明不足から生じた側面もあるが、これについて大阪高裁は「(その)責めを……無理からぬ誤認により議決権を行使した株主に負わせるのは相当でない」とし、どことはなしに神戸地裁の判断をたしなめている。一連の司法判断の捻れをめぐっては今後も議論が続くことになるだろうが、個別事案ごとの固有の事情によって司法判断は異なってしかるべきだし、それを前提とすれば、大阪高裁による今回の判断は血の通った人間味を感じさせるものと言えなくもなく、どこかほっこりさせられる。

グループ企業同士の相互不可侵

 さて、今回の騒動はもうひとつ、食品スーパー業界で歴史的に積み重ねられた背景事情を垣間見せるものでもあった。

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5:30更新
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