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高橋篤史「経済禁忌録」

関西スーパー、H2Oとの経営統合、なぜ否決から賛成に一転?株主総会での真相

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 じつは件の60代男性が役員を務めるのは関西スーパーの同業者だ。業界中堅で東証1部上場のリテールパートナーズの傘下にある丸久(山口県防府市)がそれである。男性、つまり清水実氏は、丸久の副社長兼管理本部長兼グループ管理部長であり、リテールパートナーズでは専務の座にある。丸久は山口を中心に約90店舗、同じ傘下のマルキョウ(福岡県大野城市)は福岡中心に九州全域で約85店舗を展開している。

 丸久が関西スーパー株を持ち、会社提案に強い賛成の意思を示したのは、おそらくは両社が「オール日本スーパーマーケット協会」(AJS)に加盟する企業同士だったからと思われる。1962年に設立され、現在、57社が加盟するAJSはプライベートブランド(PB)の「くらし良好」を共同開発するなど会員間の結びつきが強い。「全国スーパーマーケット協会」や「日本スーパーマーケット協会」と、ほかにもよく似た名称の団体が存在するが、業界全体を網羅するそれら一般によくある団体とAJSとは機能面で一線を画している。

 食品スーパー業界には同様の集まりが少なくない。代表格は共同仕入れ会社「日本流通産業」を核とする「ニチリウグループ」(加盟・15社・3生協)や、同じく「シジシージャパン」が核の「CGCグループ」(加盟・206社)だ。ニチリウグループの代表企業はライフコーポレーションや平和堂など。CGCグループはアークスやアクシアルリテイリング(原信やフレッセイを運営)といったところである。

 全国各地の個人商店から有力企業が続々生まれた食品スーパー業界では、昔の戦国時代さながらの陣取り合戦が繰り広げられてきた。合従連衡が進みイオンとセブン&アイ・ホールディングスの2強がリードする現在もそれはさほど変わらない。地方密着度が高い生鮮品や日配品が主力アイテムである以上、ローカルチェーンにはそれなりの強みがあり、ナショナルチェーンといえども、そう簡単に全国平定ができる話ではない。そんな群雄割拠の業界だからこそ、大手への対抗策として各地のチェーンが共同仕入れなどを通じ同盟関係を結ぶ例がいくつか見られてきた。それが先述したニチリウグループやCGCグループ、それにAJSだ。

 それらは同時に相互不可侵同盟でもある。例えばニチリウグループの場合、かつて滋賀と岐阜の県境には高い壁が聳えていた。地理的にいえば、関ヶ原あたりだ。滋賀が地盤の平和堂は地元でかなり高いシェアを誇り、裏を返せば店舗網は飽和状態に近かったが、そこより人口密集度が高い岐阜や愛知に進出することはなかった。同じニチリウ系のグランドタマコシ(愛知県一宮市)が店舗網を築いていたからだ。このため平和堂が当初打って出たのは北陸だった。

 が、時は流れやがてグランドタマコシは競争力を失い経営不振に陥る。結局、2004年に倒産。この時初めて平和堂は店舗網の譲り受けスポンサーに名乗りを上げ、岐阜・愛知に進出することとなる。今や両県では22店舗を展開中だ。他方、同じニチリウ系で和歌山と三重を地盤とするオークワもグランドタマコシ倒産後に東進を本格化。2008年に名古屋が本社のパレを子会社化するなどして、現在、愛知・岐阜で28店舗を数える。

 もっとも、両県が問答無用の草刈り場になったかというとそうでもないようだ。平和堂、オークワ両社の店舗網を子細に眺めると、それぞれの店舗の商圏はあまり重なっていないともされる。グループ企業同士の相互不可侵が今も保たれているのかもしれない。

 とはいえ、ここ十数年でニチリウなど食品スーパー同盟は徐々に大手に切り崩されつつあるのが実情だ。茨城県発祥のカスミはイオンとの提携を機に2004年、ニチリウグループを脱退。現在はマルエツやマックスバリュ関東とともにユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスを形成している。東京が地盤のいなげやも同じ経緯を辿り、2005年に離脱している。同様に埼玉が地盤のベルクは2006年にCGCグループを脱退。中国・四国に幅広く展開するイズミはセブン&アイと提携した後の2020年にニチリウグループから離れた。

 AJSを見ても各社は独自に生き残りの道を模索し始めている。思いがけず騒動の発端を作ったリテールパートナーズは2018年、岐阜を地盤に急成長を遂げた独立系のバローホールディングス、それに北海道が地盤でCGC系のアークスという、店舗網の重複が当面起きそうにない同業と3社間の資本業務提携を結んでいる。そして関西スーパーは百貨店中心のエイチ・ツー・オー傘下での生き残り策を選んだ。独立系のオーケーの提案を蹴った末のことだ。

 振り返れば、結果的に関西スーパーはAJS仲間の丸久の賛成票で最後、薄氷の勝利を掴んだ格好だ。AJSやニチリウといった集まりは現実の国際社会でいえば、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする集団安全保障体制みたいなもの。時代の変化によって業界の構図は大きく刷新されつつあるが、それでも今回の攻防劇は業界特有の安保理論が今なお健在なことを垣間見せたものだったといえそうだ。

(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

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