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札束を積んで裁判を終わらるのは、真相解明を司法の場にかけた原告の努力を無に帰す
その数少ない前例のひとつが、大阪地検特捜部による郵便不正事件の不正な捜査によって冤罪に巻き込まれた村木厚子さんが、国や当時の地検幹部らに合計約4100万円の支払いを求めた国家賠償訴訟だ。
この事件では、主任検事による証拠改ざんや地検幹部による隠蔽が明らかとなり、主任検事のほか、当時の特捜部長、副部長が逮捕され、有罪判決を受けた。最高検は、捜査の問題点を検証した報告書を発表したが、村木さんは「事実と異なる一定のストーリーに沿った調書が大量に作成された過程が検証されていない」「(不正を行った)検察幹部を育ててきた組織の風土や文化の検証が不十分」などと批判。「こうした点の解明に、自ら訴訟でかかわっていくことを決めた」として、2010年12月に提訴に踏み切った。村木さんの代理人も、特捜部長らが事件に果たした役割など、真相解明を求めていく方針を明らかにしていた。
裁判で国側は認否を留保し続け、提訴から10カ月後の2011年10月になって、村木さん側の請求のうち、逮捕・勾留による遺失利益や慰謝料など約3770万円について「認諾」した。大阪地検が捜査段階で、村木さんが事件に関与したとする関係者の供述内容を報道機関にリークしたとして、名誉毀損による慰謝料330万円については、国は請求棄却を求めて争った。
冤罪事件の被害者が起こした国賠訴訟で、国が認諾するのは前代未聞。村木さん側は、認諾によって支払われる賠償金は税金であることから、「税金で議論を封じ込めるのは納得がいかない」「裁判を通して少しでも真相が明らかになることを期待していたのに驚いている」などと残念がった。村木さんはその後、「お金を受け取ることは本意ではない」として、受け取った賠償金から弁護士費用を除いた全額を社会福祉法人に寄付している。
また、日米地位協定について協議した「日米合同委員会」の議事録を不開示としたのは違法として、NPO法人「情報公開クリアリングハウス」が110万円の支払いを求めた国賠訴訟でも、国は2019年6月、「認諾」で唐突に裁判を終わらせている。
この裁判で、国は「アメリカ政府も公開に同意しないと伝えてきた」と主張していたが、メールを証拠として提出することは拒否。そこで裁判所が、原告のNPO法人には見せず、裁判官だけで内容を確認する「インカメラ審理」を決めた。ところが、国は裁判所の決定に従わず、3カ月後の提出期限を過ぎても、メールを出さなかった。そして、その後の弁論準備手続において、突然「認諾する」として賠償金を支払った。
NPO法人の三木由希子理事長はメディアの取材に対し、「国はメールの内容を知られたくないために、賠償金支払いに応じた」と批判している。実際は、そのようなメールは存在しないか、国がメールの趣旨を違えて主張していた可能性も考えられる。いずれにしても、知られたくない事実が明らかになるのを避けるための「認諾」だろう。
札束を積んで力ずくで裁判を終わらせてしまうのは、真相解明を司法の場にかけた原告(国民)の努力を無にするものだ。