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安倍長期政権で緊急性が疑問視される自衛隊出動が散見
そんななか、第二次安倍政権以降、自衛隊を出動させるような緊急性や必要性が疑問視されるケースも散見されるようになった。
例えば大雨で7月7日に島根県出雲市で土砂崩れが相次いだとして県が災害派遣要請をし、陸自が約30人を派遣し土砂の撤去作業などに取り組んだが、陸自関係者によると「人力でできる範囲で土砂を撤去しただけで、警察や消防、地元の土建業者でも十分にできた」という。出雲市は大規模な自治体ではないにしても、一義的な災害対応を担うはずの島根県警は約1500人の警察官を擁している。たった30人程度の自衛官が普段の訓練スケジュールを曲げてまで出動する緊急性があったかは疑問が残る。
また、8月10日、台風9号から変わった温帯低気圧の影響で青森県むつ市と風間浦村などを結ぶ国道279号で落橋や土砂崩れが発生し、青森県から陸自に救援物資輸送に係る災害派遣要請も同様だ。約80人の自衛官が青森県の用意した水・食料などの救援物資を風間浦村に輸送するなどし、17日まで約1週間出動したが、人的被害が出ていたわけでもなく、本来は地元警察や消防などで対応可能な事案といえる。
派遣要請は自治体の判断によるもので、今夏に発生した広島市の大規模水害では自衛隊は出動していない。
自衛隊出動は国費で自治体負担は大幅減、被災住民へのアピールで派遣要請する面も
緊急性や必要性に疑問が残る自衛隊の災害派遣が生まれる理由について、事情に詳しい陸自幹部はこう打ち明ける。
「自治体サイドから見れば『自衛隊を呼んだ』ということで地元住民にアピールできる部分はあると思います。それに人件費やマンパワーなど負担の問題がある。自衛官は国家公務員ですが、本来災害対応の主力となるべき警察官と消防隊員は地方公務員であり、自衛隊の派遣が実現すれば自治体の負担は大幅に減少します。こういう状況があるので、自治体側からすれば『呼び得』になる現状がある。自衛隊は本来外敵と戦うための組織であるため、本来の仕事である訓練などは欠かせません。必要性、緊急性は十分に吟味していただいた上で派遣要請は行ってほしいというのは自衛隊側の本音ではあります」
自衛隊が「災害支援のプロ」と見られること自体は否定すべきことではない。また、派遣要請があれば駆けつけるのも当然の任務ではある。ただ、本連載で紹介した、新型コロナウイルスへのワクチンの大規模接種センターの開設プロセスでも露見したように、自衛隊への「安くてマンパワーのある便利屋」というような扱いが常態化するのは良いこととはいえまい。本来、時の政権に先見性があれば、「便利屋」に頼まなくても専門家や適切な民間業者を活用して危機を乗り切れるはずである。
(文=編集部)