10年前のカダフィ政権崩壊でリビアの原油生産量は日量160万バレル超からゼロにまで落ち込んだ。これにより当時の原油価格は1バレル=70ドル台後半から100ドル超えとなり、原油高は14年まで続いた。20年にもリビアの原油生産量は日量約120万バレルから10万バレル以下に急減したが、パンデミックの影響で世界の原油需要が最大で日量約3000万バレル減ったことから、材料視されることはなかった。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、来年の原油需要は前年比333万バレル増の日量9953万バレルとなり、過去最高を更新する見込みだ。このような状況でリビアの原油生産量が大幅に減少する事態となれば、原油価格は再び100ドルを超えてしまう可能性が高いだろう。
米国の戦略転換も影響
米国の歴史的な戦略転換の影響も来年以降に出てくることが必至の情勢だ。中国の台頭を米国にとっての最大の脅威と位置づけるバイデン政権は、イラクに駐留する戦闘部隊の撤退など中東湾岸地域から米軍の撤退を加速させている。湾岸地域の最大の同盟国であるサウジアラビアとの関係も距離をとり始めている。
サウジアラビアは15年から隣国イエメンへ軍事介入を始めたが、戦況は泥沼化し、今や自国の安全保障が脅かされる事態となっている。敵対するイエメンのシーア派反政府武装勢力フーシのドローンなどのたび重なる攻撃を、米国から輸入したパトリオットミサイルで必死になって打ち落としているが、1機約1万ドルのドローンを落とすために1発約100万ドルのパトリオットミサイルを使うのは割に合わない話だ。パトリオットミサイルは弾道ミサイルに対抗する兵器であり、ドローンの撃墜には向かないとの指摘もある。
そのパトリオットミサイルも手元の在庫が危険な水準にまで落ち込んでしまった(12月8日付ウォールストリートジャーナル)。サウジアラビアのイエメンへの軍事介入に批判的なバイデン政権だが、この状態を放置すればサウジアラビアの重要な石油施設が攻撃される事態を招いてしまう。19年9月に国営石油会社サウジアラムコの施設がドローン攻撃され、日量500万バレル以上の原油生産能力が失われた。次にこのような事態が発生すれば、原油価格は史上最高値(1バレル=147ドル超)となってしまうのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)