テンセントのKADOKAWAへの出資額は300億円、出資比率は6.86%。今回の出資についてKADOKAWAは「テンセント側が外為法上の免除要件を満たしたと確認済み」としている。中国では子どものゲーム利用に厳しい規制が敷かれている。21年、中国の国営メディアが人気オンラインゲーム「王者英躍」を「精神的アヘン」だとして名指しで非難した。これに対してテンセントは即座に声明を発表し、未成年者のプレイ時間の制限や12歳以下の課金禁止といった措置を講じるなどした。
テンセントは中国当局の規制の網がかからない海外市場での展開を加速させている。中国国内ではネット以外の分野を開拓しようとしている。一方、日本では、20年5月にゲーム開発会社マーベラスに出資。21年、楽天グループ、KADOKAWAと相次いで出資した。
夏野社長の舌禍事件
14年、KADOKAWAとドワンゴが経営統合し、KADOKAWA・DWANGO(現KADOKAWA)が発足した。角川書店創業家の角川歴彦氏は、紙媒体依存からの脱却を目指し、ドワンゴ創業者の川上量生氏に経営を託した。だが、ドワンゴの動画投稿サイト「ニコニコ動画」は他社の動画配信系サービスとの競争で苦戦し、川上氏は結果的に引責辞任する格好となった。
19年、夏野氏がドワンゴ社長に就いた。夏野氏は東京ガスを経てNTTドコモに入社。ドコモの黄金時代を築いたiモードを松永真理氏らと立ち上げたことで知られている。ドワンゴに転じた夏野氏は動画ビジネスの競争が激化するなかで同社社長に就任。ニコ動のコスト見直しや不採算事業の整理などを進め、黒字転換した。
その功績が認められ、21年6月22日、持ち株会社KADOKAWAの社長に就任したが、就任早々、舌禍事件を起こす。7月に出演した放送された「Abema TV」の番組内で、「子供の運動会や発表会が無観客なのに五輪だけ観客を入れたら不公平感が出てしまう」との意見について、「ピアノの発表会などと一緒にするアホな国民感情に、今年は選挙があるから(自民党も)乗らざるを得ない」と発言し、物議を醸した。この発言が反発を招き、7月23日に自身のツイッターで「番組の雰囲気に甘えたて極めて不適切な発言でした」と謝罪し、8月から10月までの3カ月間、役員報酬の月額の20%を返上した。
テンセントと提携しても株価は上がらず
夏野社長の初年度となるKADOKAWAの22年3月期連結決算は、売上高は前期比4%増の2180億円、営業利益は14%増の155億円、純利益は22%増の117億円と増収・増益の見込み。海外事業や権利許諾の拡大、電子書籍事業の成長を背景に、出版部門の売り上げ・営業利益が大きく伸長することが寄与するという。