JR東海は21年12月27日、作業員2人が死傷した中津川市のリニア崩落事故の調査結果と再発防止策を発表した。工事は奥村組など3社で作る共同企業体(JV)が担当。下請け業者が実際の作業をしていた。国のガイドラインでは崩落事故を防ぐために作業の手順書を作成することになっていたが、「作業手順書に記載されていない事項があって国の指針への対応が不十分だった」とした。
JR東海は「指針を守るのは奥村組JVの責任で、JR東海の監督業務などに落ち度はなかった」と説明した。「今後はJVと一体で再発防止に取り組む」とした。再発防止策として防護マットの設置などの安全対策のほか、現場監視を強化する。JR東海と工事業者で構成する中央新幹線安全推進協議会で対策を共有するとした。
大深度地下工事に住民が懸念
リニア工事の相次ぐ事故で工区の沿線の住民から反発の声が挙がる。JR東海は21年10月14日、リニア工事の一環として、東京都品川区の深さ40メートル以上の大深度地下で、シールドマシン(大型掘削機)を使った作業に着手した。リニアでの大深度地下工事は初めてである。
東京・品川―名古屋間の286キロメートルのうち、都内や川崎市の33キロメートルと名古屋市の17キロの工事は、直径14メートルのシールドマシンを使用したシールド工法で行うことを決めている。大深度地下工事をめぐっては20年10月、東日本高速道路(NEXCO東日本)による東京都調布市内の東京外かく環状道路地下トンネルのルート上で、陥没や空洞が見つかった。JR東海はリニア工事の住民向けの説明会で「外環道の陥没場所に比べて対象工区の地盤は締まっている」と説明していた。
国交省は調布市の陥没事故を受けシールド工法の検討会を21年9月28日に開いた。工事を急ぎたいJR東海は10月14日、「試掘」と称して工事に着工した。品川区にJR東海から「試掘をやる」という連絡があったのは、着工する3日前の10月11日だという。JR東海はシールド工法によるリニア初の大深度地下工事に踏み切ったが、その直後に岐阜県内のトンネル工事で事故が相次いだことになる。
静岡工区の南アルプストンネル工事は全長25キロメートル、地表から最大1400メートルの深さを掘削する日本の土木史上、比類のない難工事とされている。突発湧水や崩落など、未知の地層に穴を開けた結果、何が起きるのかについては、「正確には把握できない」というのが専門家たちの意見だ。
最難関となる工区の工事に入る前の段階で、事故を相次いだことになる。大深度地下におけるシールド工法を含めて、JR東海のリニア工事は数々の難問に直面している実態が露わになった。
国としても財政投融資から3兆円を貸し付けている。リニアの沿線の自治体は中長期的な街づくりの一環としてリニアを位置付けている。だからこそ、高度な政治的な判断が必要になる。
(文=編集部)