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江川紹子の「事件ウオッチ」第195回

【江川紹子が危惧する報道と権力の“距離”】読売新聞と大阪府の連携、立憲民主の資金提供

文=江川紹子(ジャーナリスト)
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ジャーナリズムの信頼性を揺るがす“独立性の偽装”は「公共メディア」としては致命的

 もうひとつのCLPの一件も、「独立性」「独立性らしさ」が問題になった事例である。

 CLPの佐治洋・共同代表の説明によると、2020年3月からファンドが運用されるまでの間、約1500万円(1動画あたり平均5万円・1番組あたり平均12万円程度)の制作費を立憲民主党から提供してもらっていた、という。その後はクラウドファンディングで集めた資金で活動し、政党からの資金援助は終了した。ただし、このクラウドファンディング実施の際に、立憲民主党からの支援については明らかにしていなかった。

 これを、ツイッターで野党批判を繰り返し、立憲民主党の国会議員から名誉毀損で裁判も起きている「Dappi問題」とも関連付けて語る識者もいるが、この両者は似て非なる問題だ。

 「Dappi問題」は、SNS上の匿名アカウントが真偽取り混ぜた発信で野党を攻撃しているうえ、その発信元と見られるWEB制作会社の得意先のひとつが自民党だったことが問題とされている。つまり、野党やリベラル勢力を攻撃する匿名アカウントの裏に、自民党がいるのではないか、という疑惑が持たれ、巨大与党の広報戦略のあり方に関心が向けられている。Dappiは、もともと公共性のあるメディアではなく、ジャーナリズムの信頼性が問われた問題とは異なる。

 一方のCLP問題は、立憲民主党の政党としてのあり方よりも、CLPのメディアとしての独立性、透明性に疑念がもたれている。

 出演者の有志が抗議した後の説明で、佐治代表は番組内容について、次のように弁明した。

〈資金提供期間に特定政党を利するための番組作りはしていません。立憲民主党からCLPや番組内容への要求・介入はありませんでした〉

 大阪府と読売新聞が、「連携と協働」はあっても取材や報道とは別、と言うのと似たような説明である。ただ、この両者が関係を公表したのに対し、暴露されるまで資金提供を伏せていた分、CLPの説明は説得力に乏しい。

 佐治代表は、事実を公表していなかったことについて反省の弁を述べつつ、政党の支援を受けた理由について、こう弁明している。

〈テレビや新聞などのマスメディアと異なり、ネットメディアについてはそれほど厳密な放送倫理の規定が適用されるわけではなく、政党や企業や団体からの資金の提供についてマスメディアであれば抵触するであろう各種法令は適応外であろうという認識でいました〉

 確かに、ネットメディアはテレビのように放送法の規定に縛られるわけではない。しかし、法律の規定に縛られているわけではない新聞が、これまでなぜ独立性を重視してきたのかを、TBSの報道記者を務め、『報道特集』のような報道番組に携わった佐治氏が知らないわけはあるまい。

 このような言い訳は、独立性を保つ努力をしながら情報発信をしている、他のネットメディアにとっても大きな迷惑だろう。反省が足りないといわねばならない。

 CLPが、当初から番組に「立憲民主党提供」とスポンサー名を明らかにしていれば、少なくとも今回のように、出演者から「重大な背信行為」などと非難されるようなことはなかった。

 ただ、そうすれば独立性への疑問符がつく。立憲民主党が資金を提供したのは、CLPへの支援は同党の理念や利益に叶う、と判断したからに違いない(そうでなければ、資金提供は党や党員への背信行為になってしまう)。CLPの番組制作者が、同党に露骨に肩入れをするつもりはなかったとしても、外から見れば、「立民系」のメディアと映る。そのような“色”がつくのを嫌い、資金提供の事実を伏せたのではないか。それは、“独立性の偽装”であって、「公共メディア」としてはかなり致命的な問題といわざるを得ない。

 せっかく志をもって始めたメディアなのだから、ここはしっかりと第三者による調査を行い、事実をすべて明らかにして、一から出直してもらいたい、と思う。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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